すごく分かりやすかった。失敗しながらも浴衣にチャレンジしたおかげで解像度が高くなっているのもあるけれど、最低限着物と帯を買えばあとは何とかなるというのが分かって、暁生の心は明るくなった。
 あと、シバさんが暁生のことを歓迎してくれているのも嬉しかった。若いからとか知識がないからで見下した感じがまったくなくて、一緒に着物を楽しもうという気持ちが嬉しい。

 SNSを見れば、残り少ない夏を満喫しようというかのように、浴衣の画像で賑わっていた。
 前に見たドクロ柄の浴衣の男性は、今度は白の角帯を合わせたオーソドックスな雰囲気で着こなしている。同じものでも、組み合わせや着方次第でいろいろ楽しめるのには憧れる。
 伝統柄の浴衣に無地の帯、そこに小物袋を差し込んでいる人もかっこ良い。これでもかというくらいサイケデリックな生地に真っ赤な帯を結んでいる人は、夏らしさ全開だ。

 日本には四季がある。季節を感じられるのが着物の良さなのかもしれない。難しいと思っていた着物のルールもそう考えれば頭に入ってくるような気がして、暁生の中でまた少し何かが変わった。

 シバさんのアドバイス通り、浴衣のサイズを測ってみた。貼り付けてくれた図はどこかで見たことがあるなと思ったら、いつも読んでいる本の中にあったのを思い出した。もしかしたらシバさんも「男の着物読本」を読んでいるのかもと思いつつ、測った数字をメモしていく。
 教えてくれたサイトで絞り込み検索をかけてみたら、いくつかかっこ良いなと思うものがヒットした。見ているだけでも楽しくて、時間が溶けていく。

 暁生は織物体験で作ったコースターの手触りを思い出しながら、紬の着物を探した。あった、シバさんも前にアップしていたようなアンサンブル。羽織はなくても大丈夫とシバさんは言っていたけれど、街歩きをするならはじめはこんな風に着てみたい。
 値段は2万円。買えなくはないけれど、洋服に2万円はかけないよなと思ったら、ちょっと手が出せない。ひとまずブックマークだけして、もう一度シバさんに聞いてみよう。

「シバさん、いろいろ教えてくださりありがとうございます。予算ギリギリなんですけど欲しい着物がありました。これなんですが……」
「紬のアンサンブル、いいですね。この状態で2万円なら買いだとは思うけど、予算は大丈夫?」
「実は、僕もそこで迷ってました」
「ひとつ提案なんだけど、僕の持っているリサイクル着物でよかったら着てみません?」
「いいんですか」
「着物男子が広がるならむしろ大歓迎です。その予算は、次の着物をゲットするときの軍資金にして下さい」
 
 その代わり、ひとつお願いがあって。シバさんから続けてメッセージがきた。
「秋頃に着物男子会をやろうと思ってるんですけど、よかったらコハダ君も参加しませんか?」