コハダという暁生のSNSアカウントがシバさんのフォローリストに載ったことで、他の着物ユーザー数人からもコハダアカウントはフォローされるようになった。
 このままじゃいけないよな。暁生は慌ててもうひとつのアカウントに学校の友達を移すと、コハダアカウントのプロフィール欄に「着物が好き」と追加してみた。

 はじめて自分が着物好きであることを世界に公言する。暁生はドキドキしながら、ひとつめの投稿をアップした。
「着物を着てみたいと思っている男子高校生です。分からないことだらけでいいねしかできませんが、よろしくお願いします」

 学校に行っている間は、スマホの電源は切ってカバンの中にしまっておく校則になっている。
 授業と放課後のクラブ活動が終わった帰り道、暁生はふと思い出してスマホの電源を入れた。SNSのアイコンに3という通知バッジがついている。だれかが暁生の投稿に反応をしてくれたんだ。
 すぐにでも確認したいような、なんだか確認するのが怖いような、とりあえず青信号になった横断歩道を渡って、それから確認してみようか。あれこれ考えているうちに、結局SNSを起動しないまま家まで帰ってきてしまった。

 机の上にスマホを置いて、一呼吸つく。どう押したってスマホのタッチパネルは反応するのに、暁生は指先でおそるおそるアイコンに触れた。
 暁生の投稿に、いいねマークが2つついている。そして驚いたことに、シバさんからリプライが入っていた。
「フォローありがとうございます。着物を着てみたいとのこと、ぜひ一緒に男着物を楽しみましょう!」

 今まで見るだけの人だったシバさんから言葉を掛けられたことにうろたえている自分が半分、もしかしたら夢が叶うかもしれないと思う自分が半分。
 今まで着物を着てみたいと口に出せなかった暁生でも、このアカウントなら口に出しても大丈夫。インターネットの向こう側からシバさんに応援してもらったような気がして、せめぎ合う自分の気持ちに思い切って決着をつける。 
「リプライありがとうございます。よろしくお願いします」
 すぐに暁生のリプライにいいねがついた。シバさんはリアルタイムでSNSを見てくれているらしい。
「こちらこそよろしくお願いします。もし分からないことがあったら、DM開放していますので、気軽に聞いて下さい」
 暁生が思っているよりも速いスピードで、シバさんがまたリプライしてくれた。チャットをしているような気分だった。
 DM。ダイレクトメッセージ。シバさん以外の人に見られることなくメッセージのやり取りができる機能。使ったことはないけれど、もしその機能を使っていいのなら、引っ込み思案な暁生でも聞きたいことが聞けるかもしれない。

 着物を一枚も持っていない初心者以前の男子高校生。フォロワーさんたちの前では聞きづらいことだらけだ。シバさんは、もしかしたら暁生に何かためらいがあることを察してくれたのかもしれない。
 ちょっと虫が良いかもしれないけれど、そんな風に受け取れる人柄がシバさんの投稿やコメントから感じられて、暁生の心は軽くなった。