同好会発足の帰り道、暁生はシバさんと同じ帰り道を歩いていた。
「高校生のパワー、すごいね。メンバーが増えるといいね」
「はい。シバさんの着物男子会のおかげで、新しいことにチャレンジする勇気をもらいました。ありがとうございます」
「こちらこそだよ。実はさ、榎波君が着物同好会を立ち上げるって聞いて、僕も考えていたことを実行に移そうかと思って、少しずつ動いてるんだ」
「え、どんなことですか?」

 シバさんは、暁生より年上とは思えないいたずらっぽそうな笑顔を浮かべた。
「柴田呉服店を復活させたいんだ。この地域の織物産業に携わってきた人はだいぶ高齢になっているけど、誇りにしてきた織物産業を元気にしたいと思っている若い世代の後継者が数人いてね。ネット販売から始められないか、ってことで僕がそこを担えないかなと思ってる。あとは、呉服店自体を着物カフェみたいな感じにして、気軽にみんなが遊びに来てもらえるような場所にしたいんだ」
「かっこ良いです!」
「そう? ありがとう。背中を押してくれたのは、榎波君の行動力だよ。僕が夢を手放してしまった高校生の時に、榎波君はこうやって夢を叶えてるんだから」
「そ、そんなこと……」
「榎波君と出会ったことで、諦めていた夢をもう一度掴む力が湧いた。こちらこそありがとう」

 まだまだ着物男子の人口は少ないかもしれないけど、楽しんで着物を着よう。それが仲間を増やす一番の近道だと思うから。
 シバさんの言葉は、暁生の胸に沁みた。着物を楽しむ。それが一番。

 暁生も将来に向けて、まだ確実ではないけれど少し新しい夢が芽生えている。高校を卒業して大学でいろいろ勉強したら、この街で産業を活性化する仕事に就きたい。
 小学生の時に感じたあの布の手触り。シバさんから譲り受けた紬の着物のぬくもり。シバさんが夢にもう一度チャレンジすると聞いて、暁生もまた自分の思いをノートに書き記した。
 
 着物男子暁生とシバさんとの出会いは、新章へと新たな一歩を進めていく。

                     終わり