暁生と前田さん、そしてあと2人何とかぎりぎり集めて、着物同好会の申請の許可が下りたのが2学期の終わり。最初の活動日は3学期にしようと決まった。
「今揃っていれば、春の部活紹介に間に合うしね」
「部活紹介に、着物で出てみるのはどう?」
「関先生は賛成してくれると思うけど……。男子の方はどう?」

 同好会の下地ができた時点で、暁生はシバさんとやり取りをしていた。
「着物同好会、いいね。それすごい良いと思うよ。僕もそんなに遠くないし、毎回は厳しいけど有給休暇が取れるから、2ヶ月にいっぺんくらいは行けると思う。っていうか、ぜひ行かせてほしい。部活紹介の時も手伝うよ」
「本当ですか!」
「高校生の榎波君が夢を実現させていて、僕が応援しないわけにいかないじゃないか」
「ありがとうございます!」

 シバさんが一度学校に挨拶に来てくれるというので、関先生にそっちの手続きは任せて、暁生たちは、同好会用の小さな部室の片付けをすることにした。
 男子と女子合同で活動をする日、着付けの練習で交互に利用する日というのを決めたら、さっそく関先生が着物の歴史についての講義をしてくれるという。

「え、俺浴衣着るだけのために入ったんだけど」
「ついでに日本史の成績上がるかもよ」
「こういう勉強だったら授業中も楽しいのにな」
「へぇ、榎波君がそんなこと言うと思わなかった」
「そう?」
「うん。なんかあまりどこかのグループに入らなくて、ひとりで勉強してるイメージ」
「そうか」

 少し前までの自分から見れば意外な行動を起こしているとは思うけれど、好きというエネルギーが自分を変えてくれたんだ、と暁生は思う。
 柴田先生の本、シバさんとの出会い。浴衣チャレンジ、着物男子会。世界はどんどん広がって、視界が開けていく。

 最初の活動日。部員4人と関先生が集まったところに、シバさんも隣の市から会社を休んで、着物で駆けつけてくれた。
「柴田敦弥と申します。SNSで男子着物を広める活動をしていて、そこで榎波君と知り合い、今回のご縁となりました。若い人に着物が広まることを嬉しく思っています。まずは春の部活紹介で着物を着ること、そして夏祭りに浴衣で出かけることを最初の目標にして、楽しくやりましょう。よろしくお願いします」
「よろしくお願いします!」

 女子2人は、シバさんの挨拶にキャーと黄色い声を上げている。シバさんの着物効果は抜群らしい。ウールのあたたかそうな着物に着物用のコートを羽織って現れた時の姿はかっこ良くて、暁生たち男子2人も、
「着物、かっけぇな」
「だよね」
 と頷きあったくらいだ。
 
 高校生で着物を着たいなんて思っているのは自分くらいだと思っていたら、少ないながらも味方ができた。ためらいを捨てて行動してみるって、大事なんだ。暁生の顔に笑みが浮かんだ。