せっかく同じ産地仲間だからと、シバさんと連絡先を交換して帰ってきた。暁生の着物の師匠は、これで2人になった。着替えて、久しぶりに男の着物読本を開いてみる。
 男性も気軽に着物を楽しんでもらえることを願って書きました、と冒頭にはあった。柴田先生もシバさんも、そして今日出会ったみんなも、楽しい気持ちが大事だと言う。

 ルールやきまりごとも大事にしながら、昔のものじゃなくて今のものとして見てほしい。女性や高齢の人が着るというイメージを変えて、かっこ良いものだということを広めたい。
 ちょっと試してみたいことがある。暁生は新しく湧き出た夢をノートに書き出した。
 
 夢の実現には仲間が必要だ。ある程度考えたところで、暁生は協力者に声を掛けることにした。前田さんだ。浴衣チャレンジの時、励ましてくれたおかげで失敗につまずかなくて済んだ。前田さんも、もっとみんな着たらいいのにと言っていたことを思い出したのだ。
「前田さん、あのさ──」

 暁生の話を聞いた前田さんは、目を輝かせて頷いた。
「いいじゃん、やりたい。相談してみようよ、先生に」
「大丈夫かなぁ」
「大丈夫だよ。あ、そうだ、日本史の関先生なら話通しやすいかもしれない、授業の時いつも扇子持ってるし」
「ああ、黒板指し棒の代わりに使ってるやつ?」
「そうそう。きっと和風なこと好きなんだよ。んで、日本の絹織物についても調べますとか言えば完璧でしょ」
「勉強もするの!?」
「口実だよ。もう、榎波君は真面目だなぁ」
「前田さんのアイディアがすごいんだよ。僕、そこまでは考えてなかった」
「とりあえずお昼休みに職員室行こ」
「え、もう?」
「こういうのは善は急げって言うんだよ」
「う、うん」

 前田さんに相談してみて良かったという思う反面、実際に動き始めるとなって暁生はうろたえた。着物や浴衣を着てみたい生徒を集めて同好会を作れないか、という話を前田さんにしたら、あっという間に話がまとまってしまった。

「着物同好会、いいじゃない。メンバーは榎波君と前田さん。あとはだれ?」
「まだ2人しかいないんですけど」
「うちの学校は4人からが決まりなのよ」
「4人かぁ。だれかいるかなぁ」
「こないだの夏祭りで、来年着てみたいって言ってたやつがいた」
「そう言えば、女子でも何人かいた。聞いてみよっか」
「あと、私が顧問になってもいいんだけど、女子の着物は分かるんだけど、男子の着物には詳しくないのよ」
「……先生を外部から招いてもいいでしょうか」
「私と面談をしてもらって、学校の許可が下りれば平気よ」
「聞いてみます」

 昼休み、関先生をつかまえて同好会発足の下地は整った。あとはメンバー集め。そしてシバさんにお願いすることだ。シバさんはサラリーマンだから、平日に時間を取ることはできないかもしれない。早めに聞いてみないといけない。
「女子の方は私が聞いてみる。榎波君は男子に声掛けて」
「分かった。ありがとう、前田さん」
「来年の夏祭りは、みんなで浴衣着ようよ」
「そうだね」