2時間の着物男子会はあっという間に終わり、次回もぜひやろうと約束をして、パソコンの画面はオフになった。
「ミント君、コハダ君、喉乾いたでしょ、ごめん麦茶くらいしかないけど」
「嬉しいっす、ありがとうございます」
「いただきます」
 飲んだら帰ります、今夜もライブなんすよ実は。と、ミントさんは脇に置いてあったギターケースをかついだ。
 ミントさんは、ライブでどうやったら目立つかを考えて、浴衣にたどり着いたのだそうだ。浴衣でギター、かっこ良い。暁生は憧れの眼差しでその姿を見上げた。
 
「いろんなきっかけが聞けて楽しかったね」
 残った暁生はシバさんの片付けを手伝う。隣の市と言っても40分くらいで来られたのも、近くにシバさんがいるという心強さを感じる。
「はい。みんなそれぞれきっかけは違うけど、着物が好きなんだなというのが分かりました」
「自信ついたみたいで、良かった。周りに着物着る人が少ないとちょっと心細いよね」
「どうして分かるんですか?」
「まさに高校生の時、僕もそうだったんだよ」
 この柴田呉服店がまだ営業してた時の話なんだけどね。シバさんは店の中を見渡しながら言った。

 作り付けの棚や商品台には、かつて反物や仕立て上がりの着物が収められていたのだろう。
 今はがらんとした店内、一角に畳のスペースがあって、今日はそこで男子会をやった。座売り畳というんだそうだ。ここにいつもシバさんのおじいさんである柴田啓之先生が座っていたのかと思うと、何だか感慨深い。

「この店が好きで、よく遊びに来てたんだ。お客さんの希望を聞いてぴったりの生地を選ぶところを見ているだけで楽しかった。着物が好きになったのはじいちゃんの影響なんだ。いつかこの店を継ぎたいなぁと漠然と思ったりして」
「そうだったんですか」
「だけど、七五三や浴衣の季節以外に着物を着る機会ってないよね。着物が好きって気持ちは変わらなかったけど、だんだん店に来ることも減って、あとは榎波君も知ってると思うけど、産業としてはどんどん落ち込んでいって」
「はい」
「この柴田呉服店も続けていけなくなって、僕が高校生の時に閉店してしまったんだ。残っていた反物は全部他に譲って、残った着物は僕や親戚がもらったりしてね。今日着てる綿紬もそう。呉服屋を継ぎたいなんて贅沢な夢なんだと思い知らされた。仕事としてやっていくのは厳しいんだ」
 淡々とそう話すシバさんの口調は普通だったけれど、少しさみしそうにも暁生には聞こえた。

「呉服屋を畳んだじいちゃんは、それから本や講演会、着物に関わる仕事をするようになったんだけど、男性の着物人口が少ないことを嘆いていてね。じいちゃんが亡くなって、自分にも何かできることはないかと考えて、始めたのがSNSだったんだ」 
 今はサラリーマンをしながら週末は着物生活をしていて、それをSNSにアップしたら同調してくれる人が思いの外多くてびっくりした。こうやって幅広い年齢の人と交流できるのが楽しい、とシバさんは暁生に笑いかけた。