着物男子会。それぞれお気に入りの着物を着て集まって、自己紹介や着物の好きなところなんかを語り合うのだそうだ。集まれる人は実際に集まって、遠い人はオンライン参加で。
 場所はシバさんの実家である呉服屋さんの空き店舗。聞けば、シバさんの家は暁生が住んでいる地域の隣にあった。

「僕、隣の市に住んでます」
「じゃあ同じ織物産地仲間だね。もしかして小学生の時、機織り体験やらなかった?」
「やりました。そこから着物にたどり着いたんです」
「実はその機織り体験の企画に、うちの祖父も参加してたんだ」
「そうだったんですか」
「体験してくれた人が着物に興味持ってくれたって聞くと嬉しいな」
 
 その着物男子会にシバさんからもらった着物を着てきてほしいというのが、シバさんからの条件だ。
 いきなり初対面の人たちに会うことに躊躇いはないと言えば嘘になるけれど、自信をつけてきた暁生には夢が叶う喜びの方が大きい。
 着物を着て街を歩く。あれだけハードルが高いと思っていたことが、だれかに話すことで飛び越えられるんだ、そう実感した。
 自分ひとりで悩んでいないで、こうやってだれかと繋がることで世界は広がっていく。秋の来るのが待ち遠しく思えた。

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 はじめての着物。暁生は、今までの失敗や挑戦を思い出しながら、綺麗に畳んである着物を広げてみた。

 濃紺の紬の着物は細かい絣模様が入っているシンプルなもので、軽く羽織ってみてもサイズはちょうど良かった。辛子色の博多帯がシンプルな着物によく映える。羽織の裏の背中部分には青海波柄の生地が貼ってあって、暁生のSNSのアイコンに合わせて選んでくれたのだと分かり、シバさんの粋なはからいに頭が下がる。
 長襦袢や足袋などの小物は、シバさんのおかげで浮いた予算で新品を買うことができた。

 送り主の名前をもう一度確かめる。柴田淳弥(しばたあつや)。シバさんのおじいさんは、暁生のバイブル「男の着物読本」の著者、柴田啓之先生だった。

「え、男の着物読本読んでくれてたんだ。祖父はもう他界しているんだけど、もしコハダ君が読んでくれていることを知ったら喜んだだろうな」
「そうだったんですか」
「男にも着物を着てほしいって言うのは祖父の口癖だったんだ」
「柴田先生の本は愛読書です」
「ありがとう」

 着物が繋いでくれた縁に暁生は感謝した。

 2学期は学校行事が多くて時間を捻出するのが難しいけれど、着物男子会まであと1ヶ月。頑張って着付けの練習をしよう。ワクワクする気持ちが暁生の心を占めた。