◯◯◯
表札に書かれた「櫻木」の文字。
「ただいま」
玄関を開ければ暖かい暖気が顔を覆う。
「おや、おかえり紬。外は寒かったろう、早く中へ入りなさい」
帰ってくる音に気付いたのか、部屋の奥からは私の父・櫻木仁が出迎えにやって来た。
「うん、あー寒い寒い」
急いで靴を脱げば、早くコタツに入って温まろうと居間へ急ぐ。
「学校はどうだった?」
「別にいつも通りだよ」
「そうか」
「あ、でもね!今日学校の帰りにエリの家に寄ったんだけど…」
私は放課後のことを親父へと話して聞かせた。
生まれて初めてのことだった。
自分が誰かの家に行ったのは。
こんなにも楽しいんだって。
自分にとって、特別な経験が味わえた気がした。
向こうにとっても、誰かを自宅へ招くというのは初めての行為だったみたいだから。
改めて私が来た時、凄く嬉しかったって言ってくれた。
獅門さんもとてもフレンドリーな人で、帰りもここまで車で送ってくれたのだ。
「そうか、それは良かったね」
「うん!だから今度は私がエリをうちに招きたいんだけど、いいかな?」
もっともっと。
今日だけでもかなりの収穫だった。
エリや真吾が妖という伴侶に娶られる繋ぎであるということも。視点をずらせば、自分の知らない彼らの世界が一杯あって。それでも妖が繋ぎを娶る根本的な理由は分からないままで。
しかし油断はできない。
エリ達が繋ぎに選ばれた以上、今後は妖に会う確率が高くなった。
「ああ、いいとも。今度の休みにでも連れて来るといいさ」
「ありがとう親父」
確かめなければ。
私が…アイツから逃れるためにも。
「そう言えば紬、お前にお客さんだよ」
「お客?」
誰だろう、こんな夜遅くに。
不思議に思って親父の後に続き居間に入れば、そこにいたのは一人の人物。
「や!紬」
「げっ、優兄」
ひらひらと私に向かって手を振って来たのは、兄の櫻木優一郎だった。
人当たりのいい、にこやかなスマイルでこちらを見てくれば、吞気にコタツでくつろいでいた。
「ちょっと、ちょっと!久しぶりに愛するお前のお兄様が会いに来てやったというのに、げっはないでしょ⁈」
「会いたいだなんて、頼んだ覚えはないんですけど」
なんでいるんだ…。
まだ平日だというのに、一体ここへは何しにきたんだ。
「冷たいな~。そんなこと言われたら、お兄様は泣いちゃうよ??」
「それはそれで気持ち悪いからやめて」
「ひど!!」
そんな優兄の態度にそっけなく対応する。
「というか、家の方は大丈夫なの?」
「心配ない。今日はここに来ることを言ってあるからね」
なら普段は無断で抜け出しているということだな。
全く自分の立場もあるというのに、いつまでも私なんかに関わっていたら…
「久しぶりに来たけど、元気そうで安心したよ」
なのにいつだって、私に向けるのは優しい笑顔で。
「…うん、優兄も元気そうでよかった」
優兄は私とは一回りも年の離れた兄妹。
いつものほほんとやって来ては、話すだけ話して帰っていく姿は昔から相変わらずだ。
訳あって、私がここで暮らすようになった今でも、私を気にしてかこうして顔を見せに度々やって来る。
「ほんと、いつだって優兄は突然やって来るよね」
微笑む優兄へ可笑しそうに笑えば、彼はけろりとしていた。
「可愛い妹の為なら毎日だって来たいよ」
「シスコンきもい。ほんとそれやめて」
そういうとこも昔から何も変わらない姿に、私は安心感を覚えるんだ。
表札に書かれた「櫻木」の文字。
「ただいま」
玄関を開ければ暖かい暖気が顔を覆う。
「おや、おかえり紬。外は寒かったろう、早く中へ入りなさい」
帰ってくる音に気付いたのか、部屋の奥からは私の父・櫻木仁が出迎えにやって来た。
「うん、あー寒い寒い」
急いで靴を脱げば、早くコタツに入って温まろうと居間へ急ぐ。
「学校はどうだった?」
「別にいつも通りだよ」
「そうか」
「あ、でもね!今日学校の帰りにエリの家に寄ったんだけど…」
私は放課後のことを親父へと話して聞かせた。
生まれて初めてのことだった。
自分が誰かの家に行ったのは。
こんなにも楽しいんだって。
自分にとって、特別な経験が味わえた気がした。
向こうにとっても、誰かを自宅へ招くというのは初めての行為だったみたいだから。
改めて私が来た時、凄く嬉しかったって言ってくれた。
獅門さんもとてもフレンドリーな人で、帰りもここまで車で送ってくれたのだ。
「そうか、それは良かったね」
「うん!だから今度は私がエリをうちに招きたいんだけど、いいかな?」
もっともっと。
今日だけでもかなりの収穫だった。
エリや真吾が妖という伴侶に娶られる繋ぎであるということも。視点をずらせば、自分の知らない彼らの世界が一杯あって。それでも妖が繋ぎを娶る根本的な理由は分からないままで。
しかし油断はできない。
エリ達が繋ぎに選ばれた以上、今後は妖に会う確率が高くなった。
「ああ、いいとも。今度の休みにでも連れて来るといいさ」
「ありがとう親父」
確かめなければ。
私が…アイツから逃れるためにも。
「そう言えば紬、お前にお客さんだよ」
「お客?」
誰だろう、こんな夜遅くに。
不思議に思って親父の後に続き居間に入れば、そこにいたのは一人の人物。
「や!紬」
「げっ、優兄」
ひらひらと私に向かって手を振って来たのは、兄の櫻木優一郎だった。
人当たりのいい、にこやかなスマイルでこちらを見てくれば、吞気にコタツでくつろいでいた。
「ちょっと、ちょっと!久しぶりに愛するお前のお兄様が会いに来てやったというのに、げっはないでしょ⁈」
「会いたいだなんて、頼んだ覚えはないんですけど」
なんでいるんだ…。
まだ平日だというのに、一体ここへは何しにきたんだ。
「冷たいな~。そんなこと言われたら、お兄様は泣いちゃうよ??」
「それはそれで気持ち悪いからやめて」
「ひど!!」
そんな優兄の態度にそっけなく対応する。
「というか、家の方は大丈夫なの?」
「心配ない。今日はここに来ることを言ってあるからね」
なら普段は無断で抜け出しているということだな。
全く自分の立場もあるというのに、いつまでも私なんかに関わっていたら…
「久しぶりに来たけど、元気そうで安心したよ」
なのにいつだって、私に向けるのは優しい笑顔で。
「…うん、優兄も元気そうでよかった」
優兄は私とは一回りも年の離れた兄妹。
いつものほほんとやって来ては、話すだけ話して帰っていく姿は昔から相変わらずだ。
訳あって、私がここで暮らすようになった今でも、私を気にしてかこうして顔を見せに度々やって来る。
「ほんと、いつだって優兄は突然やって来るよね」
微笑む優兄へ可笑しそうに笑えば、彼はけろりとしていた。
「可愛い妹の為なら毎日だって来たいよ」
「シスコンきもい。ほんとそれやめて」
そういうとこも昔から何も変わらない姿に、私は安心感を覚えるんだ。