「入って」
「お邪魔します」
エリの部屋は、可愛らしい部屋とは少し違った。
「わあ、漫画やアニメのフィギュアがたくさん」
可愛いものやショッピングが好きだと言う彼女のことだから、可愛らしいピンク系党のお部屋を勝手に想像していたのだが、予想と違ったようだ。
「そう言えばスマホを持っていたよね?」
「学校へのスマホ持ち込みは禁止だけど、私の場合は特別にね」
そう言って見せてくれたスマホはテレビのCMでも最近よく流れてくる最新機種だ。解除されたホーム画面を見てみれば、そこにはゲームアプリがずらりと。
「ゲーム好きなんだね」
「趣味で結構やり込んでるのよ。最近はデカイ買い物もできたしね」
「デカイ買い物?」
「これこれ!」
そう言ってエリが見せてくれたのは、勉強机に設置された大きなパソコンだった。
「これってゲーミングPCってやつ?」
「ええ!誕生日に買って貰ったんだ。スマホでもいいんだけど、やっぱこっちの方がグラフィック性能も高いしね」
「お嬢はゲーム中毒なんですよ」
コンコンとドアがノックされると、獅門さんがお茶を持って入ってくる。
「ゲームに夢中になるのもいいですけど、受験シーズンなんですから控えて頂きたいものです」
獅門さんは呆れ顔でエリを見つめた。
「煩いわね。だから最近ではセーブしたままにしてるでしょ?」
「ほんとですか?勉強するとか言って、実は夜通し起きてやってたりして」
「失礼ね!疑うなら見ればいいでしょ!」
二人は軽い口喧嘩を始めると、そこから止まる気配がない。
「ちょっとエリ、ステイステイ」
私は何とか彼女を落ち着かせれば、気になっていた本題に入ろうとした。
「それで…妖の伴侶についてなんだけど。エリは今、その妖の繋ぎってことでいいんだよね?」
「うん。まあでも私の場合は、繋ぎの約束は小さい頃から決まってたみたいなんだけどね」
「そっか。相手はどんな妖なの?」
「鷹の妖よ。内永甫鷹(うちながほだか)っていって、歳は私の一個上。苗字が同じなのは私と同じ内永家の家系だからよ」
内永家は過去、鷹の妖と縁があったという。
戦後、多くの民が苦しい生活を強いられる中、彼ら妖の存在は貴重だった。人間には到底真似できないほど、多くの知識と強い身体能力を併せ持ち、戦後の国を復興と再建へと貢献させていった。
内永家は元々、それなりに地位のある名家として古い時代から栄えていたという。
そのため戦後の日本を司る妖とは何度か接点もあったが、これを機に繋ぎとしての契約を結び、互いの地位向上に繋げたという話だ。
「多くの妖と関わりがあった内永家では、特に鷹の妖と縁が深かったみたいなの」
「だから繋ぎの関係を?」
「うん。まあでもウチが契約を結んだのって、戦後からだったから。関係は古くても繋ぎとしての力はまだまだ他より劣るけどね」
妖との契約。
家同士が結べば、今後の地位は約束されたようなもの。
それが名家である家なら尚のこと。
伴侶が名家の繋ぎを娶れば将来安泰だ。
「お嬢は彼とも歳が近く、その頃、内永家では他に見合う繋ぎ候補の方がいらっしゃいませんでしたからね」
「百年に一度しか生まれない、妖の生まれ変わりだからね」
「一つ気になったんだけど、契約した家同士は、必ずしもその家系内から生まれた者同士とでないと繋ぎは娶れないの?」
ずっと不思議に思っていた。
妖は来世のためにも、その足跡を残しておく必要がある。そうとくれば、内永家のように力ある名家との契約をしてしまえば、自身の後釜となる先祖返りが家系を通じて期待できる。
でも中には恋愛婚として繋ぎを娶った妖もいると聞く。
でも普通の人間は、自分からは先祖返りの存在を五感で判断することができない。
そのため、妖側がいつ、どんな人間を選び、繋ぎにするかの詳細が未だ解明されてない。
だからこそ、家系内では彼らに相応しい繋ぎ候補生が推薦される。だが稀なケースとはいえ、妖もきちんと恋愛結婚をする者もいるのだ。
それが例え、過去に自分が契約をした家系であがった繋ぎ候補を裏切って、その繋ぎを優先したとしても。
そこに過去の契約を破っていい口実が存在するのだろうか。