「…ごめん、何て?」
私は一瞬、何を言われたか分からなかった。
「だから、繋ぎに選ばれたから別れてほしい」
自分の目の前に佇むのは自称、私の彼氏である大谷真吾。
彼は気まずそうな顔で私を体育館裏へ呼び出せば、開口早々にそう告げた。
「繋ぎ?繋ぎって、あの妖の伴侶のこと?」
「ああ、何でももう決まったことだからって。ほら、俺の家って元はイタチの妖とゆかりがある名家だからさ」
妖の伴侶。
それはこの世にいるとされる妖が、自身の先祖返りを来世に残す『繋ぎ』と呼ばれる伴侶を人間達の中から娶る行為。選ばれる人間は妖と過去に縁が深かったり、第六感が優れていたり、恋愛婚だったり色々だ。
人間は生きていても妖に出会うことはまずない。
それほど彼らの存在は貴重で数が少なかった。
加えて彼らは自らの存在を公表する機会が少なく、力を抑えてひっそりと暮らすためともあってか人間の間では幻とも噂されるほどだ。
真吾は一般の学校に通う生徒にしては珍しく、家はれっきとした名家でイタチの妖とも縁が深かった。
代々受け継がれてきた一族の中、ここにきてイタチの先祖返りが生まれたと。
知らせを聞きつけた一族の中では緊急集会が開かれ、伴侶には真吾が選ばれたという。
「…どうしてもなの?」
私は泣きそうになるのをグッとこらえた。
初めて貴方に告白された時、凄く嬉しかったんだよ?
それからは毎日が楽しくて。
お互いに今年で受験を迎えるんだ、冬を越して春からは高校生だからと。
それでも一緒の高校へ行こうねって、二人で約束までしたのに。
そんな望みにかけると彼を見つめた。
「ッ、し、仕方ないだろ…家同士が決めたことに拒否権なんてないし。それに、」
「…」
「正直言って、繋ぎに選ばれたのは嫌じゃないというか。この間、相手との顔合わせもしてきたけど可愛くていい子そうだったし」
「…何よ、それ」
期待していた言葉とはほど遠い。
真吾のそんな態度に酷く傷つき落胆した。
「可愛いって、仮にも彼女である私の前でそれを言うの?」
「ごめん…でも俺、彼女に一目惚れしたんだ」
「は?」
それは予想もしていなかったことだった。
一目惚れしたですって?
彼氏の口からは一番聞きたくもなかった残酷な言葉だ。
「最初は本当にただ話すだけのつもりでいたんだ。でも話してるうちに段々と彼女のことが気になって。それで気づいたら好きになっていた」
「そんな…なんで、なんで彼女なの?私達、ずっと上手くいっていたと思ってたのに」
「もちろん紬を嫌いになった訳じゃない。でも何というか…あの子は紬と違って女の子らしいというか、、、」
「…」
「思わず俺が守ってあげたくなる子なんだ。一緒にいて落ち着くし」
顔を赤らめながら話す彼を冷めた目で見つめた。
確かに彼の言う通り、自分には強気な性格の部分が多い。
可愛く男子に媚びることも、甘えるのも嫌い。
ずっと己の力で頑張ってきたせいか、他よりもだいぶ大人びてると言われる。でもそんな自分が好きだと、そう告白してくれたのはそっちだ。
選ばれた繋ぎとしての役目を果たすため、話にいくだけなら我慢もできた。でもまさか伴侶の相手に一目惚れしてしまうだなんて。
「好きって、そんな私だから好きって言ってくれたのに」
初めて告白された日のことを覚えている。
照れくさそうな顔で好きだと言ってくれたのもこの場所だ。
「ごめんな。でももう決めたことなんだ。紬は強いし、俺がいなくてもきっと大丈夫だよ。でもあの子は、俺が守ってやらないと駄目だから」
ーー俺は守られるより、守ってやりたい子が好きだ。
それだけ言うと、真吾は私を残して行ってしまった。
追いかける気にもなれず、私は呆然とその場に立ち尽くせば、彼の背中を見送ることしかできなかった。
私は一瞬、何を言われたか分からなかった。
「だから、繋ぎに選ばれたから別れてほしい」
自分の目の前に佇むのは自称、私の彼氏である大谷真吾。
彼は気まずそうな顔で私を体育館裏へ呼び出せば、開口早々にそう告げた。
「繋ぎ?繋ぎって、あの妖の伴侶のこと?」
「ああ、何でももう決まったことだからって。ほら、俺の家って元はイタチの妖とゆかりがある名家だからさ」
妖の伴侶。
それはこの世にいるとされる妖が、自身の先祖返りを来世に残す『繋ぎ』と呼ばれる伴侶を人間達の中から娶る行為。選ばれる人間は妖と過去に縁が深かったり、第六感が優れていたり、恋愛婚だったり色々だ。
人間は生きていても妖に出会うことはまずない。
それほど彼らの存在は貴重で数が少なかった。
加えて彼らは自らの存在を公表する機会が少なく、力を抑えてひっそりと暮らすためともあってか人間の間では幻とも噂されるほどだ。
真吾は一般の学校に通う生徒にしては珍しく、家はれっきとした名家でイタチの妖とも縁が深かった。
代々受け継がれてきた一族の中、ここにきてイタチの先祖返りが生まれたと。
知らせを聞きつけた一族の中では緊急集会が開かれ、伴侶には真吾が選ばれたという。
「…どうしてもなの?」
私は泣きそうになるのをグッとこらえた。
初めて貴方に告白された時、凄く嬉しかったんだよ?
それからは毎日が楽しくて。
お互いに今年で受験を迎えるんだ、冬を越して春からは高校生だからと。
それでも一緒の高校へ行こうねって、二人で約束までしたのに。
そんな望みにかけると彼を見つめた。
「ッ、し、仕方ないだろ…家同士が決めたことに拒否権なんてないし。それに、」
「…」
「正直言って、繋ぎに選ばれたのは嫌じゃないというか。この間、相手との顔合わせもしてきたけど可愛くていい子そうだったし」
「…何よ、それ」
期待していた言葉とはほど遠い。
真吾のそんな態度に酷く傷つき落胆した。
「可愛いって、仮にも彼女である私の前でそれを言うの?」
「ごめん…でも俺、彼女に一目惚れしたんだ」
「は?」
それは予想もしていなかったことだった。
一目惚れしたですって?
彼氏の口からは一番聞きたくもなかった残酷な言葉だ。
「最初は本当にただ話すだけのつもりでいたんだ。でも話してるうちに段々と彼女のことが気になって。それで気づいたら好きになっていた」
「そんな…なんで、なんで彼女なの?私達、ずっと上手くいっていたと思ってたのに」
「もちろん紬を嫌いになった訳じゃない。でも何というか…あの子は紬と違って女の子らしいというか、、、」
「…」
「思わず俺が守ってあげたくなる子なんだ。一緒にいて落ち着くし」
顔を赤らめながら話す彼を冷めた目で見つめた。
確かに彼の言う通り、自分には強気な性格の部分が多い。
可愛く男子に媚びることも、甘えるのも嫌い。
ずっと己の力で頑張ってきたせいか、他よりもだいぶ大人びてると言われる。でもそんな自分が好きだと、そう告白してくれたのはそっちだ。
選ばれた繋ぎとしての役目を果たすため、話にいくだけなら我慢もできた。でもまさか伴侶の相手に一目惚れしてしまうだなんて。
「好きって、そんな私だから好きって言ってくれたのに」
初めて告白された日のことを覚えている。
照れくさそうな顔で好きだと言ってくれたのもこの場所だ。
「ごめんな。でももう決めたことなんだ。紬は強いし、俺がいなくてもきっと大丈夫だよ。でもあの子は、俺が守ってやらないと駄目だから」
ーー俺は守られるより、守ってやりたい子が好きだ。
それだけ言うと、真吾は私を残して行ってしまった。
追いかける気にもなれず、私は呆然とその場に立ち尽くせば、彼の背中を見送ることしかできなかった。