陰陽一族とは本国を二つに関東では陽一族、関西では陰一族が多く点在している。
東の領国を仕切る陽の筆頭・白桜家では、陽のエネルギーを集中させるために日々多くの分家が力を費やしているが、中でも櫻木家は数ある分家の中でも三本の指に匹敵する強豪家であった。
その証として屋敷には、白桜家を象徴する枝垂桜の幹が植えられており、春になると本家の開花に続いて桜が見頃を迎えていた。
「今年も満開だね~。どうだい綺麗だろ?」
「…まあ桜はね」
敷地内に入れば嫌でも見えてくる本家までの入口と側に佇む大きな桜の幹。
今回は例年よりも咲きがいいようだ。
「にしても変だな…」
桜は本来、春に開花するのが基本であるのに対して、ここの桜は違っていた。季節関係なく春に開花する時もあれば、こうして冬に突然咲くこともある。
そうして気が付いた時には既に散ってしまっているのだ。
「ねえ、なんであの桜は毎年咲く時期が違うの?」
私はずっと気になっていたことを優兄に訪ねてみた。
「ああ、それは本家様がかけた異能のせいだよ」
「異能?」
桜の側までやって来た優兄は私をその場に下ろすと上を見上げた。近くで見るとより一層美しく咲き誇っているのが分かる。朝方の外は非常に寒いせいか、所々が霜で覆われている花もあるがそれすら綺麗である。
「本家様はその昔、かの有名な日本三大桜の幹からその一枝を譲り受けたと聞く。枝はやがて立派な幹へと成長すれば、今のような立派な枝垂桜が生まれたんだ」
本家はこれにある異能をかければ、その開花時期をずらしたという。だがそれには理由があった。
「本家様は徒花をお作りになったのだよ」
「徒花?」
「咲いても実を結ばず散る。季節外れの花さ」
見かけは良くても内側の自柄を伴わず、虚しく終わる様としても表現される。つまりは見かけ倒し。
「普通に考えればあまりいい意味ではない。でも本家様はわざと桜に実が宿らないよう、開花後は直ぐに散るよう異能をかけたんだ」
「どうして?」
「実という余分な栄養分より価値が高いのは、一番端麗な状態で咲く開花の時期。その瞬間のエネルギーだけは比じゃないほど陽にとっては強力なものだったんだ。本家様はここに目をつけたわけさ」
そしてそのエネルギーをそのまま大木の根本へと吸収させる。吸収された後は儚くも実をつける新芽を宿さぬまま花は散ってしまう。
だが変わりにエネルギーは領土へと響くと災いを跳ね除けるため多いに力を発揮する。
季節外れに咲くのは、木が自動的にこのエネルギーを必須とする環境を毎年選んでいるから。
「だから年に一度、この開花が見られれば今年も陽の領土は安心してエネルギーが約束されるというわけさ」
「英気を吸う一輪の徒花…か」
「そんな素晴らしいお役目を務める徒花を、本家様はこうして櫻木家にも一枝お譲りになったのだ。ならば私達もそれにお答えしなければね」
さあ行くよと、優兄は歩いて行くので自分も静かにその場を後にした。
東の領国を仕切る陽の筆頭・白桜家では、陽のエネルギーを集中させるために日々多くの分家が力を費やしているが、中でも櫻木家は数ある分家の中でも三本の指に匹敵する強豪家であった。
その証として屋敷には、白桜家を象徴する枝垂桜の幹が植えられており、春になると本家の開花に続いて桜が見頃を迎えていた。
「今年も満開だね~。どうだい綺麗だろ?」
「…まあ桜はね」
敷地内に入れば嫌でも見えてくる本家までの入口と側に佇む大きな桜の幹。
今回は例年よりも咲きがいいようだ。
「にしても変だな…」
桜は本来、春に開花するのが基本であるのに対して、ここの桜は違っていた。季節関係なく春に開花する時もあれば、こうして冬に突然咲くこともある。
そうして気が付いた時には既に散ってしまっているのだ。
「ねえ、なんであの桜は毎年咲く時期が違うの?」
私はずっと気になっていたことを優兄に訪ねてみた。
「ああ、それは本家様がかけた異能のせいだよ」
「異能?」
桜の側までやって来た優兄は私をその場に下ろすと上を見上げた。近くで見るとより一層美しく咲き誇っているのが分かる。朝方の外は非常に寒いせいか、所々が霜で覆われている花もあるがそれすら綺麗である。
「本家様はその昔、かの有名な日本三大桜の幹からその一枝を譲り受けたと聞く。枝はやがて立派な幹へと成長すれば、今のような立派な枝垂桜が生まれたんだ」
本家はこれにある異能をかければ、その開花時期をずらしたという。だがそれには理由があった。
「本家様は徒花をお作りになったのだよ」
「徒花?」
「咲いても実を結ばず散る。季節外れの花さ」
見かけは良くても内側の自柄を伴わず、虚しく終わる様としても表現される。つまりは見かけ倒し。
「普通に考えればあまりいい意味ではない。でも本家様はわざと桜に実が宿らないよう、開花後は直ぐに散るよう異能をかけたんだ」
「どうして?」
「実という余分な栄養分より価値が高いのは、一番端麗な状態で咲く開花の時期。その瞬間のエネルギーだけは比じゃないほど陽にとっては強力なものだったんだ。本家様はここに目をつけたわけさ」
そしてそのエネルギーをそのまま大木の根本へと吸収させる。吸収された後は儚くも実をつける新芽を宿さぬまま花は散ってしまう。
だが変わりにエネルギーは領土へと響くと災いを跳ね除けるため多いに力を発揮する。
季節外れに咲くのは、木が自動的にこのエネルギーを必須とする環境を毎年選んでいるから。
「だから年に一度、この開花が見られれば今年も陽の領土は安心してエネルギーが約束されるというわけさ」
「英気を吸う一輪の徒花…か」
「そんな素晴らしいお役目を務める徒花を、本家様はこうして櫻木家にも一枝お譲りになったのだ。ならば私達もそれにお答えしなければね」
さあ行くよと、優兄は歩いて行くので自分も静かにその場を後にした。