優兄が親父の家に来た日から一週間後。
時間とは早くに進むもので、その間に考えられたことといったら何一つ出てきやしない。
「…十年ぶりか」
見つめる視線の先にはかつての自分の住まい、櫻木家の本家が顔を覗かせていた。
「どうだい?久しぶりの我が家は」
吞気に遅れて車から出てきた優兄に、私は嫌悪の眼差しを向ける。
「ほんといつ見ても最悪なとこね、ここは」
「ひどい言い方だね。一応、紬にとっても実家となる家なのに」
「その実家が私を追放したから言ってんの」
全く、こんなに早くに連れ戻される羽目になるとは。
あの日から優兄は約束をしっかりと守ってか、今日朝早くに親父の家へとやって来た。
櫻木家ご自慢の高級車に乗って迎えに来るなり、まだ寝ている私を叩き起こせばそのまま車へと突っ込んでしまった。
あれだけ嫌だと直前まで粘ったにも関わらず、優兄は親父への挨拶を早々に済ませて外に連れ出してしまうので私も大人しくするほかなかった。
「優兄なんて大っ嫌い」
「僕は好きだよ?」
「え、きもい」
「え~」
私の冷たい対応に優兄はガッカリした顔を見せるも、実際は傷ついてなさそうだ。
「親父に挨拶できなかった点をどう弁解してくれるんですか~」
「まあまあ。もう二度と会えなくなるわけではないんだ。それに、彼からはお前を頼むよう前々からお願いされていたからね。そう心配せずとも大丈夫さ」
前々から?
まさか親父、今回の件に関して何か知っていたのだろうか。
だとすれば私がこうして櫻木家に連れ戻される話を聞いて驚いていなかったことにも納得がいく。
優兄は少なくとも月に一度は親父の元を訪れに来る。
私に会いに来たと言っても、それが毎回親父の家である必要なんてあるか?
ならば今回の件、もしや親父も一枚噛んでいるかも知れない。
「ん?どうしたんだい?」
「…いや、なんでもない」
まあ落ち着け。
下手に今ここで追求するのは危険だ。
優兄は謎に勘が鋭いとこあるから。
変に行動して目を付けられるのも厄介。
ただでさえ私に対して抜け目がないというのに、これ以上監視されたらたまったもんじゃない。
「さ、なら行こっか!」
優兄は私の手を取ればそのまま敷地内へと歩いて行く。
「嫌だ!私、帰る!帰るったら離せ!」
クソ!こんなことなら、前日の夜にでもエリの家に避難しておけば良かった。
まさか親父まで関与していただなんて。
もっと警戒しておくべきだった。
昨日の自分ほんと馬鹿だ!!
「離して!」
「も~いい子だから。ね?いい加減腹くくんなさいよ」
「いや!絶対に入らないよ!私はもうこの家に用なんてないんだから!」
こうなれば力づくで逃げるに限る。
私は今ある精一杯の力で足を踏ん張れば、その場に踏みとどまった。
「いやったら嫌!!」
「はぁ…なら仕方ないね」
「え?うわ!」
突如、ぐんと力いっぱい手を引っ張られれば、そのまま優兄の胸にダイブしてしまった。
「はい確保。いい子で捕まってくれた紬はこのままお兄様とお家入りま~す♪」
「は?ちょ!」
一体、どこにそんな力があったのか。
優兄は私を俵担ぎすればそのまま敷地内へとスタスタ歩き出す。
「嫌だ嫌だ!離して!」
バタバタと足を動かすも、ガッチリ腕にホールドされれば一溜まりもない。拘束は振りほどけないまま徐々に敷地内へと近づいていく。
「このクソ兄貴!」
「ちょっとちょっと!女の子がクソとか言ってはいけません」
「オカンか。…ってか優兄、なんで担げんの?」
私としてはそっちの方が驚き。
あんなに貧弱だった頃と比べて今ではすっかり豹変してしまった。
「え~僕だって男だよ?女の子の一人や二人、抱っこできて当然だよ♪」
噓つけ。
昔は貧弱で体付きも細かったから、運動なんておろか体力も続かなかったくせに。
でもなんだこの変わりようは。違和感が半端ない。
だって優兄の和服越しからもその筋肉の感覚が伝わってくるし。私のことも片方の肩に軽々と乗せて悠々と歩けてるし。
だが十年も経てば人は変わるのだろうか。
性格は変わらずとも体格はもうあの頃のままではない。どこか逞しささえ感じ、余計に腹が立った。
「…優兄、なんか変わったね」
「イケメンってこと?」
「…」
「そこは噓でもそうって言って」
時間とは早くに進むもので、その間に考えられたことといったら何一つ出てきやしない。
「…十年ぶりか」
見つめる視線の先にはかつての自分の住まい、櫻木家の本家が顔を覗かせていた。
「どうだい?久しぶりの我が家は」
吞気に遅れて車から出てきた優兄に、私は嫌悪の眼差しを向ける。
「ほんといつ見ても最悪なとこね、ここは」
「ひどい言い方だね。一応、紬にとっても実家となる家なのに」
「その実家が私を追放したから言ってんの」
全く、こんなに早くに連れ戻される羽目になるとは。
あの日から優兄は約束をしっかりと守ってか、今日朝早くに親父の家へとやって来た。
櫻木家ご自慢の高級車に乗って迎えに来るなり、まだ寝ている私を叩き起こせばそのまま車へと突っ込んでしまった。
あれだけ嫌だと直前まで粘ったにも関わらず、優兄は親父への挨拶を早々に済ませて外に連れ出してしまうので私も大人しくするほかなかった。
「優兄なんて大っ嫌い」
「僕は好きだよ?」
「え、きもい」
「え~」
私の冷たい対応に優兄はガッカリした顔を見せるも、実際は傷ついてなさそうだ。
「親父に挨拶できなかった点をどう弁解してくれるんですか~」
「まあまあ。もう二度と会えなくなるわけではないんだ。それに、彼からはお前を頼むよう前々からお願いされていたからね。そう心配せずとも大丈夫さ」
前々から?
まさか親父、今回の件に関して何か知っていたのだろうか。
だとすれば私がこうして櫻木家に連れ戻される話を聞いて驚いていなかったことにも納得がいく。
優兄は少なくとも月に一度は親父の元を訪れに来る。
私に会いに来たと言っても、それが毎回親父の家である必要なんてあるか?
ならば今回の件、もしや親父も一枚噛んでいるかも知れない。
「ん?どうしたんだい?」
「…いや、なんでもない」
まあ落ち着け。
下手に今ここで追求するのは危険だ。
優兄は謎に勘が鋭いとこあるから。
変に行動して目を付けられるのも厄介。
ただでさえ私に対して抜け目がないというのに、これ以上監視されたらたまったもんじゃない。
「さ、なら行こっか!」
優兄は私の手を取ればそのまま敷地内へと歩いて行く。
「嫌だ!私、帰る!帰るったら離せ!」
クソ!こんなことなら、前日の夜にでもエリの家に避難しておけば良かった。
まさか親父まで関与していただなんて。
もっと警戒しておくべきだった。
昨日の自分ほんと馬鹿だ!!
「離して!」
「も~いい子だから。ね?いい加減腹くくんなさいよ」
「いや!絶対に入らないよ!私はもうこの家に用なんてないんだから!」
こうなれば力づくで逃げるに限る。
私は今ある精一杯の力で足を踏ん張れば、その場に踏みとどまった。
「いやったら嫌!!」
「はぁ…なら仕方ないね」
「え?うわ!」
突如、ぐんと力いっぱい手を引っ張られれば、そのまま優兄の胸にダイブしてしまった。
「はい確保。いい子で捕まってくれた紬はこのままお兄様とお家入りま~す♪」
「は?ちょ!」
一体、どこにそんな力があったのか。
優兄は私を俵担ぎすればそのまま敷地内へとスタスタ歩き出す。
「嫌だ嫌だ!離して!」
バタバタと足を動かすも、ガッチリ腕にホールドされれば一溜まりもない。拘束は振りほどけないまま徐々に敷地内へと近づいていく。
「このクソ兄貴!」
「ちょっとちょっと!女の子がクソとか言ってはいけません」
「オカンか。…ってか優兄、なんで担げんの?」
私としてはそっちの方が驚き。
あんなに貧弱だった頃と比べて今ではすっかり豹変してしまった。
「え~僕だって男だよ?女の子の一人や二人、抱っこできて当然だよ♪」
噓つけ。
昔は貧弱で体付きも細かったから、運動なんておろか体力も続かなかったくせに。
でもなんだこの変わりようは。違和感が半端ない。
だって優兄の和服越しからもその筋肉の感覚が伝わってくるし。私のことも片方の肩に軽々と乗せて悠々と歩けてるし。
だが十年も経てば人は変わるのだろうか。
性格は変わらずとも体格はもうあの頃のままではない。どこか逞しささえ感じ、余計に腹が立った。
「…優兄、なんか変わったね」
「イケメンってこと?」
「…」
「そこは噓でもそうって言って」