見れば反対の廊下からは姉の彩奈が歩いてくる。
「今、戻りましたわ」
そう言いゆっくりとした動作で向かって来る姿は令嬢そのもの。美しい着物でお化粧の施された顔はまだまだ幼さが残るも、大人になればさぞ美しく変貌を遂げるだろう。一つしか年が違わないとはいえ、ここまでの大差。
手や服に泥をつけた自分とは何もかもが段違いだった。
「まあ彩奈おかえりなさい!」
奥からは彩姉の姿に気付いたのか、義母の細雪さんが嬉しそうにやって来る。
「どうだった?若様とのお散歩は?」
興奮気味に聞いてくる細雪さんに、彩姉は私達の前で立ち止まると困ったように笑った。
「それが部屋を出て直ぐどこかへ行かれてしまって。それらしい話は何も」
「まあ、では一緒ではなかったのですか?」
「はい。私も先程から何度も探していたのですが、どうにもお見えにならなくて」
若様?一体、誰のことだろうか。
私にはサッパリ訳が分からなかったので、優兄の腕の中で大人しくジッとしていることにした。
「彩奈」
優一郎は彩奈に声をかけるとニコリと笑った。
「お疲れ様。今回はよく頑張ったね」
「お兄様、ありがとうございます」
兄に褒められたことは彩奈にとっても嬉しいようだ。
ニコリと同じようにしてほほ笑み返せば、細雪さんも機嫌がいいのか満足気な顔だ。
「戻ったか彩奈」
「お父様!」
奥からは父も出てくると、彩奈は顔をパッと明るくさせた。
「疲れただろう。今回はよくやったな」
父はさっきまで自分に向けてきた顔とはまるで別人のような態度で、嬉しそうに彩姉の方へと話しかけた。
「ありがとうございますお父様。ですが申し訳ありません、若様とのお話はできないまま終わってしまいましたわ」
「気にするな。今回はお互い初めての顔合わせなのだ。若様もきっと、美しいお前の姿を見て照れてしまわれたのだ」
「そんな//お父様ったら」
彩奈はその言葉に恥ずかしそうに顔を赤らめると上品に口元へと手をあてた。
そんな彩奈に父達もどこか嬉しそうだ。
「焦らずとも少しずつでいい。少しずつ警戒心を解いていけば、いずれは仲良くなれる」
「そうよ彩奈。貴方なら大丈夫よ」
「お前は櫻木家自慢の娘だよ。なんてったって、本家様の繋ぎに選ばれたのだから」
そう熱く語る姿の両親を紬は静かに眺めていた。
繋ぎ?選ばれた?
初めて聞くワードばかりだが、きっと自分には関係のない話なのだろう。今もこうして、自分そっちのけで彩姉にばかり目を向け、自分は何の期待も持たれていないことぐらい嫌でも察する。
所詮、自分は側室の子。
父が正妻となった細雪さんとその間に生まれた彩姉にばかり気をかけ、お母さんを蔑ろにしている事実も知ったとこでもうどうでも良くなった。
私には優兄と違って家を継げる力もない。
だからいずれは家を出て行くつもりだ。
自由に暮らして、誰にも邪魔されない人生を送る。
それが私の未来像だ。
まあいい、今はさっさと家に帰ったらお母さんにお花をプレゼントしよう。
遠くの輪を見つめ、吞気にそんなことを考えていた。
だから油断していたのだ。
本当は花を摘んでくれた志月君が本家の若様であったことも。そんな彼が後日、彩姉に代わって自分を繋ぎにしてしまうことも。自分の自由が将来、彼によって奪われる日が来ることも。
「今、戻りましたわ」
そう言いゆっくりとした動作で向かって来る姿は令嬢そのもの。美しい着物でお化粧の施された顔はまだまだ幼さが残るも、大人になればさぞ美しく変貌を遂げるだろう。一つしか年が違わないとはいえ、ここまでの大差。
手や服に泥をつけた自分とは何もかもが段違いだった。
「まあ彩奈おかえりなさい!」
奥からは彩姉の姿に気付いたのか、義母の細雪さんが嬉しそうにやって来る。
「どうだった?若様とのお散歩は?」
興奮気味に聞いてくる細雪さんに、彩姉は私達の前で立ち止まると困ったように笑った。
「それが部屋を出て直ぐどこかへ行かれてしまって。それらしい話は何も」
「まあ、では一緒ではなかったのですか?」
「はい。私も先程から何度も探していたのですが、どうにもお見えにならなくて」
若様?一体、誰のことだろうか。
私にはサッパリ訳が分からなかったので、優兄の腕の中で大人しくジッとしていることにした。
「彩奈」
優一郎は彩奈に声をかけるとニコリと笑った。
「お疲れ様。今回はよく頑張ったね」
「お兄様、ありがとうございます」
兄に褒められたことは彩奈にとっても嬉しいようだ。
ニコリと同じようにしてほほ笑み返せば、細雪さんも機嫌がいいのか満足気な顔だ。
「戻ったか彩奈」
「お父様!」
奥からは父も出てくると、彩奈は顔をパッと明るくさせた。
「疲れただろう。今回はよくやったな」
父はさっきまで自分に向けてきた顔とはまるで別人のような態度で、嬉しそうに彩姉の方へと話しかけた。
「ありがとうございますお父様。ですが申し訳ありません、若様とのお話はできないまま終わってしまいましたわ」
「気にするな。今回はお互い初めての顔合わせなのだ。若様もきっと、美しいお前の姿を見て照れてしまわれたのだ」
「そんな//お父様ったら」
彩奈はその言葉に恥ずかしそうに顔を赤らめると上品に口元へと手をあてた。
そんな彩奈に父達もどこか嬉しそうだ。
「焦らずとも少しずつでいい。少しずつ警戒心を解いていけば、いずれは仲良くなれる」
「そうよ彩奈。貴方なら大丈夫よ」
「お前は櫻木家自慢の娘だよ。なんてったって、本家様の繋ぎに選ばれたのだから」
そう熱く語る姿の両親を紬は静かに眺めていた。
繋ぎ?選ばれた?
初めて聞くワードばかりだが、きっと自分には関係のない話なのだろう。今もこうして、自分そっちのけで彩姉にばかり目を向け、自分は何の期待も持たれていないことぐらい嫌でも察する。
所詮、自分は側室の子。
父が正妻となった細雪さんとその間に生まれた彩姉にばかり気をかけ、お母さんを蔑ろにしている事実も知ったとこでもうどうでも良くなった。
私には優兄と違って家を継げる力もない。
だからいずれは家を出て行くつもりだ。
自由に暮らして、誰にも邪魔されない人生を送る。
それが私の未来像だ。
まあいい、今はさっさと家に帰ったらお母さんにお花をプレゼントしよう。
遠くの輪を見つめ、吞気にそんなことを考えていた。
だから油断していたのだ。
本当は花を摘んでくれた志月君が本家の若様であったことも。そんな彼が後日、彩姉に代わって自分を繋ぎにしてしまうことも。自分の自由が将来、彼によって奪われる日が来ることも。