白桜?
このお屋敷と同じ名前だ。
「志月君は、このお屋敷に住んでるの?」
「まあな」
志月君は手についた土をパッパと払えばニコリと笑った。無邪気に笑ったその顔が、どこかとても綺麗で自然と顔には熱が集まるのを感じる。
「じゃ、俺は行くけど。それ、ちゃんと渡せよ?」
「え?あ、ちょ」
私が引き止めるよりも早く彼はそれだけ言うと、慌ただしく何処かへと消えてしまった。残された私は一人ポカンと彼のいなくなった方向を見つめていた。
「紬」
その声に驚き後ろを振り向けば、そこには優兄が立っていた。
「随分と長いお花摘みだったようだね」
「優兄!」
私はパッと顔を輝かせると、甘えるように優兄の元まで飛び込んだ。
噓をつき長いこと抜け出したにも関わらず、優兄はそんな様子に嬉しそうに腕を広げれば、笑顔で私を受け止めてくれる。ギュッと抱きつけば優兄の匂いに安心感を覚えた。
「探したよ。ここでは何をしてたんだい?」
「お花、お母さんにあげるお花を摘んでたの!」
自慢げに花束を見せれば、優兄は笑っていた。
「はは、そっか。なら仕方ないね」
二人は手を繋ぐと再び敷地内へと戻った。
優兄が迎えに来たということは、話し合いとやらは終わったのだろうか?
挨拶回りとはいえ、自分は何もしていないとなると…
「…お父様は?」
私は恐る恐るそう尋ねてみた。
きっと怒っているに違いない。
部屋を抜け出してしまったのだから。
「大丈夫、お兄様が一緒だから」
「でもきっと怒ってる」
あの人が私に笑ってくれたことなんて一度もない。
いつだって感情の籠らない声で、冷たい視線だけを向けてくる。
心配を通り越して呆れの方が強いのだろう。
だから私も愛情という気持ちに何も期待などしていなかった。
「はは、まあ約束を先に破っちゃったのは紬だもんね~」
優兄に言われ、ハッと今朝のことを思い出す。
今日は大事な日だからと。
行動には十分に気を付けるよう、口を酸っぱくして言われていたのを思い出す。なのに能天気にここに来る頃にはそんな約束ごとなどすっかり忘れていた。
「…優兄、ごめんなさい。また私のせいで優兄まで怒られちゃうね」
自分一人が怒られるのならまだ納得がいく。
だが自分のしたことで、優兄までもが一緒になって怒られるだけは納得いかなかった。
「でも紬には理由があったんだろう?とっても大事な、大事なね」
優兄は、しょんぼりとする様子の紬が手に持つ花束へと視線を向けた。
「その花、綺麗だね」
花束はピンクをベースに大小さまざまな花達で構成されていた。
「せっかく母上にあげるものなんだ。そんな顔をしていては、花の方へ嫌な気が移ってしまうよ」
「…うん」
花に罪はないんだから。
そう言われれば、気持ちは少し前向きになった。
志月君が摘むのを手伝ってくれたから初めよりも豪華になった。
彼はセンスがあるらしい。
聞きたいことはまだ残っているけど、もう会うことはないだろう。私がここに来る機会なんて早々ないし。
そんな物足りない、どこかモヤモヤとした気持ちのまま部屋へと戻れば、皆からの視線が突き刺さった。
「紬!お前はまた何度言ったら!!」
案の定、父は戻った私の姿に顔を真っ赤にさせて怒っていた。相当の激昂ぶりから、どうやら全てが終わった後のようだった。
「まあまあ父上、落ち着いて」
怒り狂った様子でこちらに迫って来る父に、体を強張らせた私を見かねてか優兄が間に割って入る。
私をそっと後ろへ隠せば、父の重圧から守ってくれてるようだ。
「優一郎、そこをどけ」
父はイラついた様子で優兄を威圧するも、優兄はそんな父の様子には一切臆することせず、ニコリと笑ったままだ。
「父上、紬には色々と理由があったんです。今回の事はどうか僕に免じて見逃してやって下さい」
「…優一郎、お前は紬に甘すぎる。もっと自分が櫻木家次期当主であることの自覚を持て」
父はそんな優一郎に呆れ顔で話しかけた。
このお屋敷と同じ名前だ。
「志月君は、このお屋敷に住んでるの?」
「まあな」
志月君は手についた土をパッパと払えばニコリと笑った。無邪気に笑ったその顔が、どこかとても綺麗で自然と顔には熱が集まるのを感じる。
「じゃ、俺は行くけど。それ、ちゃんと渡せよ?」
「え?あ、ちょ」
私が引き止めるよりも早く彼はそれだけ言うと、慌ただしく何処かへと消えてしまった。残された私は一人ポカンと彼のいなくなった方向を見つめていた。
「紬」
その声に驚き後ろを振り向けば、そこには優兄が立っていた。
「随分と長いお花摘みだったようだね」
「優兄!」
私はパッと顔を輝かせると、甘えるように優兄の元まで飛び込んだ。
噓をつき長いこと抜け出したにも関わらず、優兄はそんな様子に嬉しそうに腕を広げれば、笑顔で私を受け止めてくれる。ギュッと抱きつけば優兄の匂いに安心感を覚えた。
「探したよ。ここでは何をしてたんだい?」
「お花、お母さんにあげるお花を摘んでたの!」
自慢げに花束を見せれば、優兄は笑っていた。
「はは、そっか。なら仕方ないね」
二人は手を繋ぐと再び敷地内へと戻った。
優兄が迎えに来たということは、話し合いとやらは終わったのだろうか?
挨拶回りとはいえ、自分は何もしていないとなると…
「…お父様は?」
私は恐る恐るそう尋ねてみた。
きっと怒っているに違いない。
部屋を抜け出してしまったのだから。
「大丈夫、お兄様が一緒だから」
「でもきっと怒ってる」
あの人が私に笑ってくれたことなんて一度もない。
いつだって感情の籠らない声で、冷たい視線だけを向けてくる。
心配を通り越して呆れの方が強いのだろう。
だから私も愛情という気持ちに何も期待などしていなかった。
「はは、まあ約束を先に破っちゃったのは紬だもんね~」
優兄に言われ、ハッと今朝のことを思い出す。
今日は大事な日だからと。
行動には十分に気を付けるよう、口を酸っぱくして言われていたのを思い出す。なのに能天気にここに来る頃にはそんな約束ごとなどすっかり忘れていた。
「…優兄、ごめんなさい。また私のせいで優兄まで怒られちゃうね」
自分一人が怒られるのならまだ納得がいく。
だが自分のしたことで、優兄までもが一緒になって怒られるだけは納得いかなかった。
「でも紬には理由があったんだろう?とっても大事な、大事なね」
優兄は、しょんぼりとする様子の紬が手に持つ花束へと視線を向けた。
「その花、綺麗だね」
花束はピンクをベースに大小さまざまな花達で構成されていた。
「せっかく母上にあげるものなんだ。そんな顔をしていては、花の方へ嫌な気が移ってしまうよ」
「…うん」
花に罪はないんだから。
そう言われれば、気持ちは少し前向きになった。
志月君が摘むのを手伝ってくれたから初めよりも豪華になった。
彼はセンスがあるらしい。
聞きたいことはまだ残っているけど、もう会うことはないだろう。私がここに来る機会なんて早々ないし。
そんな物足りない、どこかモヤモヤとした気持ちのまま部屋へと戻れば、皆からの視線が突き刺さった。
「紬!お前はまた何度言ったら!!」
案の定、父は戻った私の姿に顔を真っ赤にさせて怒っていた。相当の激昂ぶりから、どうやら全てが終わった後のようだった。
「まあまあ父上、落ち着いて」
怒り狂った様子でこちらに迫って来る父に、体を強張らせた私を見かねてか優兄が間に割って入る。
私をそっと後ろへ隠せば、父の重圧から守ってくれてるようだ。
「優一郎、そこをどけ」
父はイラついた様子で優兄を威圧するも、優兄はそんな父の様子には一切臆することせず、ニコリと笑ったままだ。
「父上、紬には色々と理由があったんです。今回の事はどうか僕に免じて見逃してやって下さい」
「…優一郎、お前は紬に甘すぎる。もっと自分が櫻木家次期当主であることの自覚を持て」
父はそんな優一郎に呆れ顔で話しかけた。