落ちこぼれだと称されても関わらなければどうだって良かった。あの家を追い出された身で、やっと掴んだ希望だったのに。
もう戻りたくない。
「お願い、優兄」
私は懇願するように優兄を見据えた。
お願い、優兄なら分かってるはずでしょ?
それがよくない選択だってことも。
私がなんであそこを追放されたのか、それを一番側で見てきたのは優兄なのだから。
「…今度の休み、また迎えに来る。それまでに出れるよう準備をしておきなさい」
期待していた言葉とはほど遠い、冷たい眼差しを向けて放たれた言葉。
とても残酷的だった。
私はそれに何も反論することができずに俯いた。
優兄はそんな私を見つめるも、何も言わずに立ち上れば親父に見送られて居間を後にしてしまった。
後に取り残された私は魂が抜けたようにその場から動けなかった。
「紬、大丈夫かい?」
部屋に戻ってきた親父が心配そうに声をかけるも耳に入らない。
「どうして…」
「…」
「やっと、やっと手に入れた居場所だったのに」
なのにこんな形で壊されるだなんて、、、
「親父…私はどうすればいいんだろう」
何も分からない。
これからもずっと、親父と元で静かに暮らしていければ。誰にも邪魔されずに普通の生活が送れるというのなら。ただそれだけで良かったのに。
〇
夢を見た。
私が幼少期の頃の、幼い頃の夢。
人工に育てられた花よりも、道端に生える野花の方が好きだった。摘まれた刹那を着飾るのは一瞬、でも自由に着飾るのは一生ものだから。
お稽古のピアノや生け花、規則正しく与えられた勉強時間さえ窮屈で、隙さえあれば一人屋敷を抜け出した。
誰にも邪魔されないし、怒られない。
この瞬間が堪らなくお気に入りだった。
その日、私たち一族が訪れたのは大きなお屋敷だった。
正面に構える門をくぐれば、これまた大きな枝垂桜が印象的な家の本家様と呼ばれる場所での挨拶回りの日だった。通された奥座敷で控える父達の様子はどこか緊迫していて、着付けられた着物の帯が苦しく感じた。
言いつけ通りに大人しく正座をするも退屈には勝てず、兄にトイレだと偽ればそっとそこを抜け出した。
探索もかねて広いお屋敷の中を出歩けば、見つけたのは綺麗な庭園。綺麗に咲き誇る花たちを見つめれば、ある一つの考えが浮かんだ。
私は足や裾が汚れるのも気にせずに近寄れば、気に入った花たちを摘んでいった。すると数分後には、手に一杯の花束が出来上がっていた。
「おい、お前」
突然頭上からは声がすれば、下を向く視線の先には下駄を履いた足元が映り込んだ。
「一体ここで何してる」
どうやら声の主は男の子のようだ。
だが棘のある言い方にはなんか腹が立って、そのまま無視を決め込めば黙々と作業を続けた。
「なあ、聞いてんのかよチビ。それとも何?お前って馬鹿なわけ?」
「(は?)」
馬鹿ですって??
初対面のくせに生意気な。
腐っても自分は櫻木家の令嬢。
名前も名乗らないような相手に、馬鹿やチビ呼ばわりされる筋はない。
そう思うと腹が立って仕方なかった。
「見て分かんない?私は今、花を摘んでて忙しいの。だからあっち行ってよ!」
下を向いたまま荒っぽい口調で言い返してやった。
もう戻りたくない。
「お願い、優兄」
私は懇願するように優兄を見据えた。
お願い、優兄なら分かってるはずでしょ?
それがよくない選択だってことも。
私がなんであそこを追放されたのか、それを一番側で見てきたのは優兄なのだから。
「…今度の休み、また迎えに来る。それまでに出れるよう準備をしておきなさい」
期待していた言葉とはほど遠い、冷たい眼差しを向けて放たれた言葉。
とても残酷的だった。
私はそれに何も反論することができずに俯いた。
優兄はそんな私を見つめるも、何も言わずに立ち上れば親父に見送られて居間を後にしてしまった。
後に取り残された私は魂が抜けたようにその場から動けなかった。
「紬、大丈夫かい?」
部屋に戻ってきた親父が心配そうに声をかけるも耳に入らない。
「どうして…」
「…」
「やっと、やっと手に入れた居場所だったのに」
なのにこんな形で壊されるだなんて、、、
「親父…私はどうすればいいんだろう」
何も分からない。
これからもずっと、親父と元で静かに暮らしていければ。誰にも邪魔されずに普通の生活が送れるというのなら。ただそれだけで良かったのに。
〇
夢を見た。
私が幼少期の頃の、幼い頃の夢。
人工に育てられた花よりも、道端に生える野花の方が好きだった。摘まれた刹那を着飾るのは一瞬、でも自由に着飾るのは一生ものだから。
お稽古のピアノや生け花、規則正しく与えられた勉強時間さえ窮屈で、隙さえあれば一人屋敷を抜け出した。
誰にも邪魔されないし、怒られない。
この瞬間が堪らなくお気に入りだった。
その日、私たち一族が訪れたのは大きなお屋敷だった。
正面に構える門をくぐれば、これまた大きな枝垂桜が印象的な家の本家様と呼ばれる場所での挨拶回りの日だった。通された奥座敷で控える父達の様子はどこか緊迫していて、着付けられた着物の帯が苦しく感じた。
言いつけ通りに大人しく正座をするも退屈には勝てず、兄にトイレだと偽ればそっとそこを抜け出した。
探索もかねて広いお屋敷の中を出歩けば、見つけたのは綺麗な庭園。綺麗に咲き誇る花たちを見つめれば、ある一つの考えが浮かんだ。
私は足や裾が汚れるのも気にせずに近寄れば、気に入った花たちを摘んでいった。すると数分後には、手に一杯の花束が出来上がっていた。
「おい、お前」
突然頭上からは声がすれば、下を向く視線の先には下駄を履いた足元が映り込んだ。
「一体ここで何してる」
どうやら声の主は男の子のようだ。
だが棘のある言い方にはなんか腹が立って、そのまま無視を決め込めば黙々と作業を続けた。
「なあ、聞いてんのかよチビ。それとも何?お前って馬鹿なわけ?」
「(は?)」
馬鹿ですって??
初対面のくせに生意気な。
腐っても自分は櫻木家の令嬢。
名前も名乗らないような相手に、馬鹿やチビ呼ばわりされる筋はない。
そう思うと腹が立って仕方なかった。
「見て分かんない?私は今、花を摘んでて忙しいの。だからあっち行ってよ!」
下を向いたまま荒っぽい口調で言い返してやった。