この世界には陰と陽の万物に基づき二つの力が働くとされていた。
日本には古くから妖と人間が共存を図り暮らしていたが、国には天災や疾病といった多くの災いが後を絶たなかったという。
そんな中、遠い過去の時代を生き延びてきた妖達の中には二人の強い鬼が存在した。
彼らは苦しむ民達を憐れむと、ある提案を下したのだ。
一人は陰の黒鬼、一人は陽の白鬼。
彼らは国を東と西に分ければ各領土を統括した。
すると各領土には陰と陽の力が集中すれば、国には万物のエネルギーが形成され、多くの降りかかる災いを跳ね除けたという。
彼らはその後、死に際に体内から己の御霊を取り出せば各領土に社を建てて祀った。これは後の時代に安定の未来を図ると共に、人間と妖を平和と富に導く重要な要になるものだった。
そんな御霊の管理は各々の血を受け継ぐ子孫——万物家へと引き継がれた。

陽族の筆頭。
白鬼の御霊を受け継ぐ白桜(はくおう)家。

陰族の筆頭。
黒鬼の御霊を受け継ぐ黒藤(こくとう)家。

万物家は彼らの意志を引き継ぎ御霊を管理すれば、多くの異能力を備える分家——陰陽一族が誕生した。
その後、万物家は御霊を分霊すると各分家に社を建てて保管した。分家の人間が持つ異能力を祈禱と共に御霊に練り込むことは、万物を更なるエネルギー強化へと繋げたのだ。
こうして彼らの死後、百年間は国に平和が続いた。
だが百年後、本社の御霊は弱まれば国の波長が乱れた。続くようにして優秀な妖達が数を激減させれば、遂に国から滅びてしまったのだ。一族はこれに焦るも、解決の糸口は見いだせないまま再び国へは災いが押し寄せようとしていた。

すると同時期、不思議なことが起こった。
万物家に二人の赤子が生まれたのだ。
彼らの容姿は人間とは似つかず、頭部には角の生えた美しい美貌に金色の瞳を宿した異能持ちだった。
またあれほどまでに退化していた御霊がここにきて、息を吹き返すかのごとく力を強め始めたのだ。
一族は赤子達を陰陽の鬼の先祖返りだと悟った。
彼らは再び生まれ変わり、この国を災いから救いにきたのだと。
これをきっかけに、国には驚くことに各領土の地へ妖達が誕生し始めた。先祖返りは百年に一度のペースで数を増やせば、国には人間と妖の暮らす世界が再び訪れたのだ。

また先祖返りは、人間の中から『繋ぎ』と呼ばれる特別な伴侶を見つけ始めた。繋ぎには百年後の先祖返りを生むための重要な胎の力があるとされ、選ばれれば家には幸運を招き、妖にとっても来世へ強い後釜が残せると、互いの利益併存に繋がった。
だが妖の存在は希少だった。
この世に数少ない、ましては死ぬまで会うことさえ叶わないとも言われている。だがらこそ、そんな繋ぎの存在には多くの人間が心躍らせた。
汚い欲望や高い希望が見え隠れすれば、今か今かと己の存在が彼らに選ばれる日が訪れるまで。
人間達は今も尚、妖達の痕跡を追い求めていくのであった。