雨に当たっていると、私はあることに気が付いた。
「…あれ、私今日投稿してないや」
私は、投稿を始めた日から、更新を忘れることはなかった。
投稿することで、心の中で行き場のなくなった言葉たちを、そこに残せることができたからだ。
それは習慣化されていて、「忘れる」なんて考えたこともなかったのに。
今は、投稿したいと思わない。
「何、澪ってなんかネットに投稿してんの?」
「あ、うん…。お店行ったら見せるね」
そんなこんなしているうちに、あっという間に五分は過ぎた。
茜はとても長く感じただろうけど、私にとっては一瞬だった。
「店長、こんにちは」
「お、澪!と、茜くん!こんにちは!」
「こんちはー!」
相変わらず店内はごちゃっとしていて、変わったものは店長の格好と、「初夏セール実施中!」と書かれた手作り感満載の貼り紙が貼ってあることだけだった。
「雨の中来てくれてありがとう。大丈夫だった?」
「うん。茜はちょっとあれだけど…。まぁ、大丈夫だよ」
「俺を勝手に大丈夫って言うなよ!!大丈夫だけど!!」
店内に響く有線が、今流行っているアーティストの曲になると、「あ、モノクロだ」と、茜が即座に反応した。
「あれ、茜モノクロ知ってるの?」
「うん。結構好きで聴いてる。お姉ちゃんが元々好きでさ…」
それから、そのアーティストの話で盛り上がった。
茜にそんな趣味があるのか、と、一人で納得してしまった。
「で、澪!俺に投稿してるやつ見せて!」
私はスマホを開き、茜に私のアカウントのIDを教えた。
早速フォローされ、茜はあっという間に、私の投稿全てに「いいね」を押してしまった。
少し時間が経つと、店長が
「はい、ジャスミンね」
と、ジャスミンティーを置きに来てくれた。
「…あの、少しいい?ごめんね。話の途中で申し訳ないんだけど、茜くんは、澪と一緒の症状を持っているの?」
店長が、茜にそう問いかけた。
「あ、そうなんです!でも、俺の場合は、澪と逆で、雨がだめで太陽の光を欲しがります」
私たちは、その話から、今日あった出来事を話した。
「…そうだったのね。お疲れ様。今日はなんか疲れた顔してるかな?って思ったのよ。ゆっくり休んでね」
店長は優しく微笑み、少しして、「おまけ」と言ってクッキーをくれた。
クッキーはプレーンとチョコレート味で、素朴な味だった。
ザク、といって砕ける食感は、なんだか私たちに似ている気がした。
その後のジャスミンティーは、いつもより美味しく感じた。