「澪…!!!」
「ただいま」
帰ってくると、いきなりお母さんに抱き着かれた。うえ、と言ってしまったのが聞こえていないといいけど。
「大丈夫だった!?学校から連絡がきて、ひたすら申し訳ないって謝られたのよ。体育の成績のことでしょう?私が前もって言っていたけれど、澪が頑張って、先生に言いたいことを言ったんだよね。私がもう少し早く仕事を終わらせてられれば学校に行けたのに…!」
「あー…。でも、自分で解決できたから、モヤモヤは残ってないよ」
そうなの、よかった、とお母さんの話が終わりそうだ、と思っていたら。
「それで!!今私が一番聞きたいのは、晴明茜くんのこと!!」
「…え!?なんで、なんで名前知ってるの!?」
お母さんは、どうやら少し前に行った叔母さんの店で、叔母さんから「澪が男の子を連れて来た」という話を聞いていたらしい。
…これだから、叔母さんは。
「その子が助けてくれたんだって?他校の子なのに、よほど澪のことを気にかけてくれていたのね。いいなぁ」
「いいなぁ、とか言ってる場合じゃないんだけど。こっちは」
「まぁまぁ。でも、いつかお礼がしたいね。もし次会ったら、ぜひうちに来てって言っておいて!お礼がしたいってお母さんが言ってた、って伝えて!」
めんどくさいな、と思ったが、「いいよ」と言ってしまった。
すると、話を遮るかのように、バチバチと音が聞こえてきた。先程よりも雲が濃い黒色に染まっている。
「あら、さっきは止みそうだったのに、また降ってきちゃったね」
あっという間に本降りとなり、雷がゴロゴロ鳴ってきた。ピカリ、と空が光り、二秒ほど間を開けて荒々しい轟音が空を走り回る。
ゲリラ豪雨のような降りっぷりに、私の身体は自然と外へ向かっていた。
「雷も鳴ってることだし、なるべく早く戻ってきなさいよ!」
そんな声は、もちろん私になんか届いていない。
私はただ、町を駆け巡った。
人が消え、ただ車と信号機だけが雨に滲んでいる。
こんな世界が、永遠に続いてほしいようだった。
私は夢見心地で、いつもの場所に行った。
「遅ぇよ。俺が来ないとでも思った?」
そこにはすでに茜がいて、カッパを着た上に傘をさしている。
「俺はやばいのに、こんな顔色いい澪初めて見た」
「最高の気分…」
「ま、そうだよな」
茜はなるべく雨に当たりたくないようで、うずくまってしまった。
「ごめん、茜。あと五分くらい我慢できる?雨浴びててもいい?」
「五分でいいの?」
「だって、五分じゃないと茜が辛いから。五分経ったら、雑貨屋行って休もうよ」
「…ふはっ!優しっ!ま、そうだな。ありがと。そうさせてもらうわ」