思い出は風化していくものだと君は言った。僕は彼女から貰ったアルバムを毎日のように眺めている。この町は大きく変わった。きっとあの時の彼女がこの町を見たらその変わりように驚くだろう。今日もまた、海へいこうと外に出た。山の上にある僕の家も、もうそろそろ一人で住むのは嫌になってきた。山道を下り、少し歩くと潮風が頬を撫でた。いつも、この風を嗅ぐ度に思い出す。彼女との思い出を、風化することない記憶を。

冬の寒さに当てられ布団から出るとすぐに目が覚めた。タイマーを朝の五時半から三十分おきに七時までの間鳴るように設定しておいて正解だった。案の定三度寝した。
「悠真起きたー?」
下の階から母さんの少し苛立ったような声が響く。「起きたー」と言いながら制服を整える。
変なところが無いか鏡の前でクルリと一回転をする。「よしっ」と小さい声で呟き。鞄を持って階段を駆け下りた。

今日の朝食は白ご飯、焼き鮭と味噌汁に加え麻婆豆腐まである。量は多いが食べきれない訳じゃない。もし余ればタッパーに移して学校に持っていって食べれば良い。
「今日本当に寒いわね」
母さんが僕の向かいに座って湯気の立つ白ご飯を口へ運ぶ。
「すっかり冬だね」
「体調管理ちゃんとしなきゃダメよ」
「うん」
家は父と母が離婚して兄弟もいない。
『今日から本格的に冬ですねー、体調管理をしっかりしてよい一日をお過ごしください。次のニュースです。自己変性ーー』
ちょうどニュースも同じことを言っていた。
余すことなく朝食を終えお皿を台所へ出し。
綺麗に干してある靴下を手にとって履き、鞄を持って玄関へ向かった。
靴箱の上に掛けてある鍵を握りしめ扉を開けると冷えた風が体を揺らす。
「いってきます」
「いってらっしゃい」
態々玄関まで来て手を振る母に背を向け自転車にまたがる。
「そういえば、今日帰るの遅くなるから」
「わかった」
自転車を漕ぐと凍えるような寒さが頬を刺激する。吸う息が肺まで凍らせそうだ。
坂はなく緩やかな山道をお尻を痛くさせながら通過する。
コンビニも無く。近所といえる程近くに家はない。そのため家はこの狭い田舎で蔑視されている。
軽く上を見る。今日は青空がよく見える程雲一つ無い晴天だ。
「うわ!」余所見をしていたせいで自転車が大きめの石につまづき大きく跳ねた。持ち前の体幹で何とか体勢を取り直し一度自転車を止め。深呼吸をする。
とにかく怪我をしなくて良かったと自分の体幹を誉める。だが、問題はここからだ。前輪に手をやり軽く押すとペコッと凹んだ。…前輪は完璧にパンクしていた。「はぁ」と溜め息が漏れた。幸い学校まではあと少しで着くが、これだと帰りが大変だ。今日は母さんも帰りが遅いらしいから迎えに来てもらうことも不可能だ。この時点で完全に歩きが決まった。
もう一度大きく溜め息をついて仕方ないのでゆっくり自転車を押して歩いた。

朝から憂鬱な気分のまま教室に入る。
ガラガラと大きな音が鳴ったにも関わらず、誰もこちらを見ない。透明人間にでもなった気分だ。席についてすぐに寝た振りをする。僕はこうして朝の眠たい時間を潰そうとしたが、割りと着いたのがギリギリだったらしい。僕が入ってからすぐにクラス担任が教室に入ってきた。
「ほら、おまえらー席に着けー」
その一声でうるさかった教室が静かになった。
「転校生紹介するぞーほら、もっとこっちこい」
転校生?二年の終わりにさしかかっているこの時季に転校生なんて可哀相だ。こんな時に来ても友達なんてできないだろう。
担任に促され教室に入ってきたのは女子生徒だった。黒く艶のあるロングの髪を靡かせ、瞳は吸い込まれそうな程綺麗だった。
「東雲《しののめ》香帆《かほ》と言います。短い間ですが、よろしくお願いします」
彼女はお手本のようなお辞儀をしたあと真っ直ぐ前を向いた。
皆の頭上に?がたくさん付いているのは幻覚ではないだろう。いきなり何の予告もなしに転校生が来たのだから。
ある生徒が聞いた。「いきなりすぎませんか? 私達何も聞いてないのですが」
「そりぁ、すまん。とにかく仲良くしてやってくれ」
ある生徒が聞いた。「短い間ってどう言うこと? どのくらいここにいるの?」
「私は三ヶ月したらこの学校を離れます」
「具体的に三ヶ月したらどこ行くの?」
「東京です」
こんな感じで核心的なことは何一つ知ることは出来ないようだった。
結局誰一人として頭上から?が消えることはなく朝のHRは終わった。
それからは淡々と進んで行った。彼女の席は僕の左斜め後ろ。何度見ても顔立ちは綺麗でスタイルも良いどこかのモデルなんじゃないかと思うほどだった。
最初皆様子を伺うように彼女を見ていたが、昼休みが始まる頃には彼女の周りには人集りができていた。そのせいで僕は席を追いやられ今は一人寒いなか外で弁当を食べている。
「なーにやってんだ」
頬に暖かい物が押し付けられ思わず肩をすくめる。
「そんなに驚かんでも」
葵から渡されたココアを受けとる。
「葵、いきなりそんなことされたら誰だって驚く」
「そう?」と彼女、穂波《ほなみ》葵《あおい》は隣に腰かける。
彼女は一つ下の後輩で同じ書道部の部員だ。
とはいっても僕は殆ど部活に顔を出していない。理由は特に無い。何となく面倒くさいからだ。
「先輩、部活来ないんですか?」
葵が僕の顔を覗き込む。
「気が向いたら」
「えー先輩の書く字私好きなのに」
字なんて誰が書いても同じだろと心の中で悪態をつく。乾いた空気は冷たく、話しているうちに先程もらったココアも冷えてきている。
「うー、寒いんで先輩も中に入りません?」
「僕はもう少しここに居るよ」
「…そうですか。じゃ、一足先に」
風がいきなり強く吹いた。
急いで食べ終えた弁当箱に蓋をして小さな袋に入れる。貰ったココアを一気に飲み干して。葵が行った後をすぐに追いかけた。

「ここ、返り点有るから読み間違えないように」
ペンがノートの上を走る音がただてさえ眠い古典の時間の眠気を加速させる。現代文は好きなのに何故か古典だけは好きになれない。
眠気を紛らわすように教室を見回す。
東雲さんは僕とは正反対で姿勢良く。板書を写している。きっと彼女は真面目で勤勉なのだろう。なんというか、そんなオーラを放っている気がする。
不意に東雲さんと目があった。咄嗟に黒板の方を見て誤魔化した。
でもまぁ、何でこんなところに来たのだろう。
僕の住んでいるこの町は、コンビニも無く近場にあるのは山と海だけ。スーパーに行くだけでもここから歩いて十分はかかる。要するにドがつくほど田舎なのだ。そんなところにいきなり転校生が来るとなると、それなりに理由があるのではないかと気になる。かといってそれを聞くのは野暮だろう。もう一度東雲さんの方を見る。彼女は黒板を追ってペンをノートに走らせていた。その姿は、きっと誰が見ても綺麗だと思うだろう。
「おーい、佐藤聞こえてるかー」
古典の教師が僕を呼んでいることに今気が付いた。
「はいっ!」と勢いよく立ち上がる。すると、呆れたように「ボーッとしてないで話し聞けよー」と優しく諭された。
「すみません…」
僕は眠気も覚め席に座り板書を写し始めた。

外は日も暮れ始め寒さに拍車がかかっている。
はー、と息を吐くと白くなって茜色の空に溶けていった。いつもなら自転車を目一杯力強く漕いで帰るのだが今日はそうも行かない。自転車置場にあるパンクした自転車に手をかけてロックを外す。カラカラとチェーンの音が手に伝わる。早く帰らないと完全に日が暮れてしまう。そうなると街灯の無い道を彷徨うことになってしまう。僕は少し足を速めた。
それにしても天気予報の人が言っていた通り、今日からいきなり寒くなった。海の横を通りすぎようとすると冷たい潮風が頬にあたる。遠くに見える水平線に陽が沈み、海を照らしていた。
カシャッ
シャッターを切る音が風に運ばれ聞こえた。
辺りを見回すが誰も居ない。
カシャッ
また聞こえた。僕は暮れかけの砂浜に目をやる。
「あっ」
夕暮れに紛れ一人スマホを海に向けている東雲さんがいた。僕は何故か分からないが咄嗟に隠れてしまった。
カシャッとまたカメラのシャッターを切る音が辺りに響く。何をしているんだろうか。確かに海は綺麗だけど。何のために写真を撮っているのだろう。
「それで隠れてるつもり?」
考えているといつの間にか東雲さんは僕の目の前にいた。彼女の髪から柑橘系の匂いがした。
「ねぇ、なんとか言ってよ」
何も言わない僕に対して少し頬を膨らませている。学校の時とはだいぶ違う印象に僕は戸惑った。
「別に隠れるつもりは無かったんだけど咄嗟に」
「ふーん」
「それより、何してたの」
僕はおもむろに話を逸らす。
「見てたでしょ、写真撮ってたの」
「海の?」
「そうよ、それ以外何があるの」
そう言って彼女はスマホを僕へ差し出した。
「見てみる?」
悪戯っぽく笑う彼女は僕に断るという選択肢を消した。スマホの中にある写真はどれも美しい景色で先程撮っていた海もあれば、東京で撮ったであろう写真がいっぱいだった。どれも綺麗に撮られていたが、一つ気になった。
「人は撮らないの?」
「盗撮ってこと?」
「違う!」
「分かってるって、そんなに必死にならなくても」
お腹を抱え笑う彼女を見て少し苛立つ。
「はー、君面白いね」
「それはどうも」
僕はぶっきらぼうに答えたつもりだったが彼女は、そんなことを気にする素振りすら見せず楽しそうに笑っている。
「話を戻そうか、私は人を撮らないの」
「なんで」
「忘れちゃうから」
そう言う君は遥か彼方に続く水平線の向こうを見ていた。その目は真っ直ぐで、でも、どこか泣いてしまいそうなそんな目をしていた。
「さて、そろそろ帰ろうか」
彼女は立ち上がるとそう言った。
「あのさ、この事は皆には秘密ね」
「わかった」
その言葉を聞いた彼女は艶のある長い黒髪を潮風に煽られながら踏み切りを渡っていった。
僕も早く帰らないともう辺りは暗い。自転車にまたがりペダルを漕ごうとして思い出した。パンクしているんだった。

足場の悪い道を徒歩で登るのは割りとキツかった。日頃から運動は適度にしなければと自分に言い聞かせるがどうせしないだろう。
家に車は止まっておらず、まだ母さんは帰ってきていない。
鞄から鍵を取り出し玄関を開ける。
「ただいま」
誰も居ない家に寂しく声が行き渡る。階段を上り自分の部屋に入った。
取り敢えず鞄を置き、重たい制服を脱ぐ。
そして、そのままベッドにダイブした。
「あー、疲れたー」
特別何かがあったわけではないが、学校に行くという動作が一日の中で一番疲れる。
仰向けになってスマホを天井にかざす。
グループLINEに既に彼女の名前があった。皆がそれぞれ『よろしく』とか『仲良くしようね』とか彼女を歓迎するような事を送っていた。
こういうのは形式的に送るものだから、何か僕も送ろうと考えた。
『よろしく』
誰かが言っていた言葉をそのまま真似て送る。
既読がどんどん付いていく。しばらくそれを眺めていた。
僕はスマホを横に置き、体を起こした。
そろそろお風呂を洗わないといけない。
僕はのろのろと階段を下る。こんな簡単な動作でさえ一度ベッドに転がると億劫になってしまう。めんどくさがりな性格だから何かを最後までしたことは殆ど無い。まともに長く続いたのは書道くらいだ。その書道も今は全くやっていない。
お風呂を洗いながら今日の夕方の事を思い出す。彼女の写真はどれも綺麗に撮られていた。素人の僕が見てもそう思う。いや、素人だからそう思ったのかも知れないが。とにかく彼女の撮る写真に僕はあの一瞬で虜になった。もしまた、彼女の写真が見れるならもう一度みたいと思う程だった。

今日も徒歩で学校まで歩いた。自転車の修理は明後日にするらしい。修理できる所までが、かなり遠く時間がかかるのは仕方ない。
教室の中は昨日のほとぼりも一日にして冷めたようで意外にも静かだった。彼女の周りには数人の女子生徒が楽しそうに会話している。
「昨日のあれ見た?」
「見た見た、超面白かったよね」
他愛もない会話。彼女が来たときの非日常感はまだ少し残っているものの皆馴染ませようとしていた。
「ほらー、席つけー」
今日もギリギリだったようで、担任の教師が眠る暇無く教室に入ってきた。僕は眠たい目を意地で開いて朝のHRを乗りきった。
冷たい風が眠っていた僕の目を覚ました。
目を開くと教室には誰もおらず、放課後だと思い机に無造作に置かれた教科書を鞄にしまおうとした。
「何してるの?」
「えっ」
驚いたまだ人がいるとは。後ろを振り返ると東雲さんがいた。不思議そうにこちらを見ている。
「何って、帰るの」
「今、体育の時間だけど…」
そう言われ。慌てて時計を見る。確かに今の時間は三限が始まったばかりの時間だ。だとしたら僕は誰にも起こされなかったことになる。少し、いや、だいぶ悲しい。
「東雲さんはなんでここにいるの」
僕はこの事が悟られないように話を逸らした。
「私? 私は見ての通りサボってる」
「サボってる?」
確かに体育の時間だというのに学校指定の体操服を来ていない。昨日は真面目に授業を受けている姿を見て、優等生だと思ったが昨日の海の時のように彼女は恐らく学校と素を分けているのだろう。
「意外だなって思ったでしょ」
弾むように彼女は笑顔を作った。僕は顔を逸らす。
「あー、図星だったんだ」彼女は顔をしかめた。
「自分から当てたのに」表情がコロコロと変わる彼女が可笑しかった。
それを彼女は不思議そうに見ている。
息を吐いて。呼吸を整える。
一段落ついた時に彼女は髪を耳にかけて外を見た。外では皆がグラウンドを走っている。
「前の学校でもサボってたの?」
彼女は少し考えて口を開いた。
「サボってないよ。ただ、この誰もいない教室が堪らなく好きなんだ。どうしても、体育の時間は暇だからさ、よくこうして誰もいない教室で皆を見てるんだ。今は、私以外にもう一人いるけど」
ニコッと笑う君が僕の方を見た。何か言葉を探していると彼女が思い出したように「あっそうだ、佐藤くんさこの辺で綺麗なところ知らない?」と聞いてきた。何となく僕は彼女がそう聞いてくる理由が解っていた。
「写真撮るの?」
「そう、それでさ佐藤くんにも手伝って欲しいんだけどいいかな」
「何をして手伝うのさ、写真は一人でも撮れるでしょ」
彼女は髪を指でくるくるとまとめながら呟いた。
「客観的な意見が欲しくて」
彼女は前に撮った写真を雑誌のコンテストに出してみたのだそう。正直彼女の撮った写真なら賞ぐらい簡単に撮れそうだが、そうでもないらしく彼女の撮った写真は二次選考で落ちてしまった。それでも僕は十分にすごいと思ったが彼女は悔しくて、どうしても自分の撮った写真をその雑誌にのせたいという。そのためには、自分だけでなく他の人の意見が欲しいとのことだだった。僕は全然構わなかった。彼女の写真が好きだから撮るところが間近でみられるこの機会は寧ろ嬉しかった。僕は二つ返事でその頼みを受け入れた。
「それじゃあ、佐藤くんが手伝ってくれることが決まったし三限ももう終わるし余った時間二人でなにする?」彼女が僕の隣の席に座り悪戯に微笑む。
「寝る」
「あー、逸らしたー!」
ここから、僕と彼女の不思議な関係が始まった。

「先輩今から帰りですか?」
靴箱から靴を取り出しながら葵が話しかけてきた。
「葵こそ今日は部活ないの」
「今日は休みですね、て言うか先輩部活の活動計画表見てないのバレましたね」
それなら、二日程前に貰ったがどうせ行かないので机のなかに置きっぱなしだろう。葵とは途中まで帰る道が一緒なので中学のときはよく一緒に帰っていた。そのときは、僕も部活をちゃんとしていたから一緒に帰れたが今は帰る時間が違うのとこうして女子と帰るのは少し恥ずかしいという理由から一緒に帰ることは無かった。
「先輩、部活嫌いですか」
「別に、好きでも嫌いでもない」
「じゃあ部活来てください」
葵は事あるごとに僕が部活に来るように言う。
別に行ってもいいのだがいきなり現れたら皆困惑するだろう。
「気が向いたらいくよ」
曖昧な返答しかできない。葵は下唇を少し噛んだがもとに戻して僕の方を見た。
「約束してください、卒業するまでに先輩の字をもう一度私に見せてください」
向けられた眼差しに僕は少し後ろめたさを感じながら返事をした。

僕は、中学の時は書道が好きだった。毎日の楽しみは少し赤く染まった部室で仲の良かった友達と部活をする事だった。その頃の僕はそれなりに毎日が楽しかった。
「佐藤先輩! 今日佐藤先輩の家行っていいですか?」
部活の休憩中彼が話しかけてきた。
「いいけど、急にどうした?」
「そろそろテストじゃないですか、一緒に勉強しませんか?」
僕はすっかり忘れていたテストの事を思い出し、スマホで日にちを見た。
「やば、何にもしてないわ」
「まずくないですか? 今回は私が総合点で勝っちゃうかな~」
楽しそうに話す彼女のが僕の肩を叩く。
「そんなわけ無いだろ、お前この前何位だったんだよ」
「確か、百四十人中、六十四位」
「僕は十位」
「そんなん私がちょーっと本気でやれば余裕ですね」
彼女との他愛ない話が廊下に木霊する。そんな毎日が本当に楽しかった。

「どうしよう」
僕はいま人生で一番頭を抱えている。少し大袈裟かもしれないがそのくらい悩んでいる。
僕は明日、東雲さんと写真撮りに行くことになっているのだが、一つ問題があった。
「綺麗なところって言ったってなぁ…」
彼女が写真を撮るのを手伝う一つとして僕は風景の綺麗なところを紹介して欲しいと頼まれたのだか、この町でそんな華やかで思わず写真を撮りたくなるような場所は思い付かない。
「悠真ー、晩御飯できたよー」
「はーい」
階段を降りながらふと思い出す。放課後部室から見たあの景色。緑一色が日に当てられキラキラと輝き、風が木葉を揺らすその景色と隣にいた彼女の事を。
「なにしてるのー、早く降りてきなさいよ」
母の声で我に返る。あそこは駄目だ。僕は頭を振りながら下へ降りた。

結局、無難に近くの展望台を調べてきた。
冷え込む空気のもと僕は予定よりも一時間も早く集合場所にきてしまった。それほどに僕は今日を楽しみにしていた。女子と二人でどこかに出掛けたことのない僕は緊張をほぐすために頬を軽く叩く。冷えた頬が少し赤く染まるのを感じる。
それにしても寒い、天気予報では晴れると言っていたが今日は雲が少し広がっていて、太陽が全くと言っていい程役に立っていない。夏場はあれほど嫌だった暑さが恋しい。指先にそっと息を吹き掛けながら時間が過ぎるのを待った。
「あれ? もしかしてまった?」
時間ぴったりに彼女は集合場所にきた。
青と白のマフラーに淡い青色のパーカーを着ていた。冬の雰囲気に溶け込むような服装をしてる。
「全然まってないよ」
よく小説やドラマで聞いたことのある台詞を口にだしたが、なんと言うか、喉の奥がむず痒くなった。
「嘘だ、頬っぺた真っ赤だもん」
長時間待ったのもあるだろうが、これは自分でやったもののほうが大きいだろう。
「今日寒いからこれあげる」
そう言って差し出されたのは、カイロだった。
カイロを手に取ると指の先がゆっくり暖まっていく。頬に当てると本当に気持ちがいい。
「それじゃあ行こうか」
僕は彼女のあとに続くように歩いていく。
……普通、逆じゃない?
展望台は、町の観光名所になればと作られたが、今は観光どころか人ひとりこの町を訪れる人はいない。それほどまでに過疎化しているこの町は観光のしやすさではおそらく日本一だろう。
そんな説明をすると彼女は少し微笑んだ。
展望台は、町を少し外れた場所の丘にあり町からも見える。この小さな町を一望できる唯一の場所だ。初めて展望台を登った時は達成感があったのをおぼえている。勿論一人で登ったのだが。
木々が生い茂る坂道を草を掻き分け進んで行く。寒さなんか忘れ二人夢中で歩いた。
「着いたー!」
どのくらい歩いただろうか、後ろを振り返ると歩いてきたところが見えた。
「結構歩いたね」
「ここからまた歩くよ」
「これが展望台じゃないの?」
彼女が日の光を遮るようにそびえ立つ塔を指さす。確かにこれは僕たちが目指していた場所にかわりない。じゃあ、何でここからまた歩くかと言うと。
「実はこの展望台中に階段しか無いんだ」
そう、この無駄にでかい塔。中には上に続く階段しかない。つまり…
「これ…登るの?」
彼女は上を見上げた。
「行こうか」
「う、うん」
中は前に登った時とあまりかわりなく汚い。
階段を囲むように人ひとりが歩けるくらいの廊下が円状に続いている。
「なんか凄いね」
「前登った時もこんなだったけど、なんか出そうだよね」
そんな他愛もない話をしながら、階段を登り始める。幼い時は広く感じた階段が今は少し狭く感じる。コツコツと階段を踏む音が響く。
途中に窓のようなものがありそこから外が見えるようになっている。
「みてみて、これ凄い綺麗」
先頭に立つ彼女が目を輝かせ外をみている。
「上はもっと綺麗だよ」
「じゃあ、頑張ろう」
彼女は上を見上げ頷くとまた歩き出した。
「着いたー」
疲れてきた頃ようやく一番上に着いた。
「ねぇ見て!」
彼女の指を指すほうには青々とした山の奥に照り輝く海があった。
「綺麗」
そう呟く彼女はそそくさとリュックサックから一眼レフカメラを取り出した。
「そんなの持ってたんだ」
「うん、やるなら徹底したいじゃんだからこれで撮るの」
「君が買ったの?」
「違うよ、貰い物」
「誰から?」
「お父さん。それよりさ海が取りやすい場所探すの手伝って」
言われるがまま僕は展望台をぐるりと一周する。どういう場所がいいのだろうか。海に少し木が重なっている方がいいのかそれとも海を主とした方がいいのか。一歩一歩踏み出す度に床が軋む。今にも落ちてしまいそうで少し怖い。
「ねえ床落ちたりしないよね」
彼女も同じことを思っていたらしく訝しげに僕に尋ねてきたが、「僕も分からない」と答えると「まぁ大丈夫だよね」とあっさり場所の模索に戻ってしまった。
展望台の上は広く結構歩ける場所がある。柵はあるが錆びていて少し心もとない。そんなに古い建物ではないが整備されていないのか朽化している場所が多々あった。観光用に作られたのに役に立たないと、こうも簡単に放置されてしまう事を少し寂しく思った。
「ねぇ、こことかどう?」
彼女が僕の方を見て手招きしている。
そこからは、海が山々の間から見えておりコントラストがしっかりしているように見えた。
彼女がセットしたカメラを覗くと肉眼でみた景色よりも色が鮮やかに見える。
「凄い」
言葉がそれしか見つからなかった。
本当に綺麗だったんだ。
「暫くここで撮ってみるよ、佐藤くんは好きにしてていいよ」
そう言われたが特にすることもないので僕はその場に座り彼女の撮るところをみることにした。頬を撫でる優しい風が段々冷たく感じてきた。それでも彼女は写真を撮ることを辞めない。
「これどうかな」
暫くして見せられた写真は、海が真ん中にありそれを挟むように緑の山が大きく広がっていた。僕がみる分にはこれで申し分ないと思うが、彼女は満足していないようで少し悩んだあと「もう一枚撮ってもいい?」とまたカメラにむかった。
僕はそんな彼女がかっこいいと思った。何かに夢中になれる人は何よりも輝いて見えるものだ。彼女は静かにカメラのシャッターを切った。
どのくらい経っただろうか。彼女は満足したのか、笑顔でカメラをみている。
「どう? 良いの撮れた?」
「うんいい感じ」
「みてもいい?」
「いいよ」
手渡されたカメラの中にある写真はどれもよく撮れていて、これだけでも十分に雑誌に載りそうだ。
「これ応募するの?」
そう言うと彼女は目を丸くした。
「これ一枚だけで決めるのは駄目だよ、他にもいろんな所で撮ってみる。もちろん佐藤くんも手伝ってね」
彼女は微笑むとカメラを鞄に大切にしまい展望台の階段を降りた。一番下まで降りた所で彼女が振り返った。
「ねぇ」
彼女は長い黒髪をたなびかせた。
「ありがと」
もし今写真が撮れるのであれば僕は迷いなくシャッターをきるだろう。
「どういたしまして」
明日はどこに行くのだろうか。

昼下がり部室の中で私は彼を待っていた。
「先輩、遅いですよ」
「すまんすまん」
優しい目がすっと細められる。
「笑顔で誤魔化しても駄目ですよ」
そう言うと彼は困ったように頭の後ろを掻いた。
「本当にごめんって、て言うか葵も当番たまに忘れてるからおあいこだろ」
「…それもそうですね」
私は痛いところを突かれ、なにも言い返せなくなる。そんな私を見て先輩はふふっと笑っている。
「もう! 早く部活の準備しますよ!」
中学書道部は放課後活動をするために、こうして決められたメンバーで準備をしている。それにしても暑い。もうすぐで九月だと言うのに。これがテレビでも言っていた異常気象と言うことだろう。私は汗を拭いながら荷物の整理をする。昼休みもまだまだ時間がある。一旦休憩しようと先輩に声をかけようと部室の横にある準備室に入った。
「先輩、休憩しません?」
半紙の入った箱を抱えている先輩がこちらを向いた。
「これ、運んだら休憩するか」
「手伝いますよ」
「まじか、ありがとう」
「このくらい良いもんですよ」
私は先輩から指示された通りに半紙の入った箱を手にとって、部室に運ぶ。空いた机に箱を置いた。
「それにしても暑いですよね」
「確かにもうすぐ秋なのにね」
先輩は窓の外の少し赤く染まった木々を見つめている。
「先輩今年は賞取れるといいですね」
「え?」
「だっていつも一人だけ残ってやってるじゃないですか」
「見てたのか」
先輩は少し恥ずかしそうに視線をそらした。
「あれ? 葵と佐藤先輩?」
部室の入り口に友達の 由紀《ゆき》ちゃんが立っていた。
「早いね~」
「そうでしょ~気合い入ってるんだよね~」
私は細い腕を曲げて無い筋肉を見せつけた。
「そんなことより、今休憩中だから由紀ちゃんも少しまったりしてていいよ」
そう言うと先輩は部室から出ていった。暫くして帰ってきた先輩は、私達の分のジュースを買ってくれた。
「ありがとうございます」
「今日暑いからね」
冷えたジュースを飲み終えまた準備に戻る。こんな時間がずっと続けば良いのに心の底からそう願った。「今日は隣町に行こうと思うんだけどどうかな」
「隣町まで行くの?」
「駄目?」
「駄目じゃないけど、流石に遠すぎない?」
隣町はここからだと片道二時間もかかる。
しかも、隣町もここと同じで殆ど何もない。
「確かに遠いけど、調べてたらいいところ見つけたんだ」
そんなところが有っただろうか。僕の記憶は記憶に煙がかかったように思い出せない。
「これ見てよ」
見せられた写真は上空から撮られたもので、とても天気が良く青い空が美しく湖に反射している。
「湖なんてあったんだ」
「えー! 知らなかったの!」
こんなところが有るなんて初めて知った。
「でもこれ上から撮られてるよね」
「うん。この人は、ドローン使って上から撮ってるね」
「もしかして、ドローンあるの?」
羨望の眼差しで見つめる僕を見た彼女は、気まずそうに「あるわけ無いよ」と小さく呟いた。
「で、どうやって行くの」
「え? 電車があるんでしょ? 私調べたんだから」
確かに電車はあるが、詰めが甘い。
ここは田舎だ、大都会のように数分に一本あるわけではない。電車は一時間に一本しか通っておらず隣町に行くのであれば今から走ってギリギリ着くか着かないかぐらいだ。
その事を伝えると彼女は目を丸くして、僕の手を引っ張った。
「ちょっ!」
「早く行かないと間に合わないよ!」
「落ち着いて、ここから走っても間に合わないから一本遅らせよう」
幸い次の電車が来るまでそんなに時間はかからない。
彼女は僕の手を離して人差し指を僕の方へ向けた。
僕が呆気に取られていると、彼女は真剣な眼差しで言った。
「じゃあそれまで佐藤くんの家に行ってもいい?」
その申し出はあまりにも急で、先程の慌て具合からは想像できないほど冷静だった。
「…どうして?」
「だって、こんな寒い中ずっと外にいるの嫌だもん!」
そんなことかと少し残念に思ったが、彼女は最初からこんな性格じゃないか。
だが、僕の家は生憎山の奥にあるためここからだと少し遠い。このとき初めて僕は自分が住んでいるところを恨んだ。
結局、駅の中で時間を潰すことにした。
駅の中と言っても都会のようにコンビニや自販機が有るわけではなく、椅子と机しかない質素な部屋が一つあるだけの何とも寂しい所だ。
「暖かいね」
部屋には暖房が付いており外にいるよりは快適だ。僕たちは椅子に腰を掛けて来る途中にあった自販機で買ったココアを開けた。
「あとどのくらいで次の電車来るのかな」
「あと三十分はかかると思う」
沈黙が僕たちを包む。気まずい。こういった時にどんな話題を振ればいいのか僕は知らない。
僕は今日の朝やっていたニュースの星座占いを思い出してその話をすることにした。
「今日の星座占い蟹座が一位だったね」
「そうなの?」
「うん、やることが成功しやすいって言ってた。ラッキーアイテムはバニラアイスだって」
「ちなみに最下位は何座だったの?」
「えーっと確か、いて座だったはず。何もかもが裏目に出るから大人しくしようって言ってた。ラッキーアイテムは猫だった」
僕は毎日ニュースを視ていたことに感謝した。彼女も楽しそうに僕の話を聞いていた。こうして少しずつ彼女と打ち解けて行ければいいのだが。楽しい時間は予想よりもいつも早く終わる。
三十分程経過し駅のホームにアナウンスが流れる。
「よし、行こうか」
僕がそう言うと彼女も僕の後に続けるように立ち上がる。外はやはり寒かった。待機室に戻りたいくらいである。
「いやー寒いね」
彼女が両手を羽織っているコートのポケットに手を入れた。僕もそれに倣ってズボンのポケットに手を入れた。暫くして電車がホームに停車した。扉が開く。中から暖かい風が吹く。
電車の中は人一人居らず、とても静かだ。どこにでも座れる。僕たちは互いに向かい側に座った。電車の扉が閉まるとゆっくりと動き出した。見渡す限りの山をボーッと見つめる。トンネルを抜けると海が覗いた。
「佐藤くん見て! 海だよ!」
彼女は景色が変わる度に僕を呼んだ。そんなに楽しいだろうか。海なら僕たちの町にもあるのに。そんなことを思ったが僕もまんざらでもない無いのは事実だ。楽しそうに窓に張り付く彼女を見て微笑ましく思う。黒い瞳に海が映っている。
「そう言えばさ」
彼女が僕の方に向き直る。
「佐藤くん部活やってるんでしょ」
どこから聞いてきたのか彼女はそんな話をしてきた。
「うん、やってるよ。と言っても幽霊部員みたいなもんだよ」
別に隠すようなことでもないし、正直に話す。
「部活いかないの?」
本当に誰から聞いたのか…彼女まで葵みたいなことを言い出した。
「行かない、というかやる気がない」
「えー私見たかったなー佐藤くんが部活やってるところ」
「そんなところ見てどうするのさ」
僕が悪態を付くと彼女は笑い出した。
「確かにね。でも、何で行かなくなったの?」
「そんなの決まって…」
あれ? 何で。何でだっけ?
「どうかした?」
「えっあぁいや、どうしてだっけ?」
「なにそれ」
彼女は目を丸くしてまた笑い出した。

長い間座っていたから足が痛い。パキパキと鳴る膝を伸ばして立ち上がる。
「やっと着いた」
外の風景は僕たちの住んでいるところとは違い、駅の目の前にはコンビニがある。相変わらずこの町の駅も小さいが、このくらいの方が安心できる。そんなことを思う度僕は自分を田舎臭い奴だと思う。
「ここはコンビニがあるんだね」
「そうみたいだね」
そんなどうでもいいことを呟くと彼女は楽しそうに僕の前に来た。
「さてと、私が撮りたいのは夕暮れだから少し時間あるしカフェあるって書いてる。せっかくだからカフェ行く?」
スマホを見ながら彼女が僕に言う。
「そうしよっか」
カフェは思ったより近場にあった。
森の中に凛として佇むそのカフェには英語で店の名前が書いてある。僕は早く中に入りたい一心で扉を開いた。店内は少し暗いが自然光で照らされていて雰囲気があった。
「ちょっと怖いね」
彼女の言うとおり外観の綺麗さとはうってかわって中は少し廃れたような雰囲気がある。
僕たちが立ち尽くしていると奥の方から人が出てきた。
「いらっしゃいませ」
身長は百八十はあるだろうかと言うような大男が僕達に会釈した。店員だろう。
僕も「こんにちは」と返すと男はニコリと微笑み僕達を席へ案内した。
「ご注文が決まりましたらお呼びください」
「はい」
男に案内された席は店内でおそらく一番太陽光が当たっているだろうと思った。窓から外を覗くと枯れ葉が風に舞っている。夏になると生い茂っていた草木ももう面影がない。
男が厨房に戻ったのを見た彼女が興奮気味に僕に顔を寄せる。
「凄い大きな人だったね」
「でも、いい人そうだった」
二人でメニューを開く。載っているものはどれも美味しそうだ。僕はおすすめと丸みを帯びた平仮名で書かれたランチセットを頼み、彼女は少し大きなイチゴパフェを頼んだ。頼んだものが届くまで僕は彼女が今まで撮ってきた写真について色々聞いていた。暫くして大男が僕達の頼んだものをテーブルに置いた。
「美味しそうだね」
「そうだね。でも、東雲さんのパフェだいぶ大きいけど食べれるの」
「いけるいける、甘いものならいくらでも」
親指を上に立てて彼女は早速食べはじめた。
僕が頼んだランチセットは珈琲とサンドイッチのセット。勿論、珈琲は苦いと飲みたくないので砂糖を入れる。
途中、「佐藤くんが砂糖を入れてる~」なんていう彼女の凄く面白い駄洒落を聞いたような気がしたけど多分気のせいだろう。
外は風が強いのかもう葉のついていない木々が揺れていた。
「そろそろ、クリスマスだね」
外を見ていた彼女が目を細めて言った。
「気が早くない? まだ後、二週間もあるよ。それよりも先に冬休みじゃない?」
「えー二週間なんかほんとに一瞬だよ」
そうだろうか、僕は月曜から始まり金曜日に終わる学校が五日しかないはずなのに一年くらいの長さに感じていた。でも、確かに最近は時間が過ぎるのが一瞬のように思うことがある。僕も歳をとっているのだろう。
「そろそろ四時になるけど大丈夫?」
彼女がお店の中にある少し古いように見える壁掛け時計に目をやる。
「ほんとうだ。お会計して早く行かなきゃ日が暮れちゃう」
ガタンと席を立ち急ぎ足でカウンターへ向かう。すると厨房の方から僕たちの接客をしていた男の人とは違う小柄な女の人が出てきた。
「お会計ですね。千四十円になります」
愛想良く笑いながら「美味しかったです」と言って二人で半分づつお金を出す。
「また来てくださいね」
「はい! また来ますね」
店内が心なしか来たときよりも明るく見えた。

湖の名前は『星の溜まり場』と言うらしい。
少し暗い草花に囲まれた道の途中にあった看板にそう書いてあった。その名前の通り、夜になると透き通るような夜空が湖に反射して星を沈めたように見えるという。彼女はこの事を知っているのだろうか。僕は一通り調べたところでスマホを閉じる。先頭には彼女がライトをもって進んでいる。時刻は七時。夏場であればまだまだ明るいのだが、今は冬なので日が落ちるのが早い。幸い電車は九時に最後の一本があるのでそれまでに駅に着けばいい。そんなことを考えていると先を歩いていた彼女が立ち止まった。
「…どうかした?」
僕の問いかけに返事はなくただ彼女は立ち尽くしている。彼女の後ろから覗き込むように前を見る。
「うわぁ」
その景色に思わず声が出た。一面に広がる星空がまるで湖に溶けているかのように水面に揺れていた。その声に続くように彼女も喋り出す。
「凄く…綺麗…」
「僕何でこんなに綺麗な場所があること知らなかったんだろう」
「何でって…佐藤くん外でなさそうじゃん」
「確かにね」
暫く景色を眺めていた。冷たい風も気にならない程に僕はその景色に飲まれていた。
「この景色も初めはいろんな人に愛されてたんだろうね」
「どいういうこと?」
「きっとここも観光名所だったんだよ。私達の行った展望台みたいに。でも、少しずつ皆が景色に慣れ興味がなくなってしまった。それで、残った物は廃れ忘れられた。誰にも覚えられずゆくっりと朽ちていったんだと思う」
彼女の口調は優しかった。
彼女は鞄からカメラを取り出してすぐにシャッターを切った。そこからは僕たちは言葉を交わすことなく時間が過ぎていった。吐く息が白くなって夜空に消える。悴んだ手にふぅと息を吹きかける。じんわりと指先が温かくなった。
「何で写真で写真を撮るようになったの」
「何でってこの前も言ったけど雑誌に載りたいから」
君はそう言うけど僕にはもっと他の理由があるように思えた。
「よし。いいの撮れたし帰ろうか。時間もあんまりないしさ」
僕たちは来た道を少し早歩きで戻る。もうすっかり暗く、でこぼこした道を一歩一歩確かに歩く。
「さっき佐藤くんが言っていたけど、そろそろ冬休みだね」
彼女が言う。
「そうだね」
僕は素っ気なく返事した。
「佐藤くんはさ冬休み用事ある?」
「どうだろ、ないと思う。帰省と言ってもばあちゃん家近いから」
「じゃあさ、冬休みもよろしくね」
先頭を行く君が振り返っていった。暗くてうまく顔は見えないがきっと彼女の事だから笑っているんだろう。
「うん。よろしく」
僕がそう言うと彼女はまた歩き出した。僕は置いていかれないように彼女の背中を追いかける。そうか、もうすぐで冬休みか。去年は冬休みなんか何もせず家の中でじっとしていたが今年は楽しくなりそうだ。僕は期待に胸を膨らませ帰路に着いた。

放課後は大体教室か図書室で本を読んでいたり彼女と次に撮りに行く所を話していたりするのでいつも夜のように暗い。月曜日のだるい授業を七限終えて外に出ると葵が待っていた。
「先輩遅いですね。もう、こんなに暗いですよ」
「仕方ないだろ、てか葵も今生徒玄関から出たろ」
「なんでそれを…まさか先輩どこかにカメラを? 盗撮は立派な犯罪ですよ先輩…」
「してないわ」
一通り軽口を叩き終えて自転車置場へ行く。不思議なことに葵が着いてきた。
「葵、部活は?」
「今終わりました」
ふーんと相槌をする。
「興味ないなら聞かないでくださいよ」
「いやいや、そんなことないよ。割りと気になってた」
僕は昨日修理してきた自分の自転車に鍵を差してロックを外す。
「先輩もしかして一人で帰ろうとしてます?」
「そのつもりだけど、なんで?」
葵は「はぁ」とため息を着くと「うわー先輩女の子の後輩がこんなに暗い道を一人で帰るのになにも思わないんですね」
確かに暗い、が葵の家と僕の家はほぼ反対の位置にある。
「大丈夫だろ、この辺人いないし」
「…もしいたらどうするんですか? もし私が誘拐されたら? 先輩のせいですよ!」
そうはならんだろと思いながら去年の事を思い出す。あーこれはあれだ、暗いのが怖いんだ。去年もあったな。それで、暗いの怖いのか聞いたら殴られたんだっけ。
「わかった、送ってくよ」
僕の言葉に葵は小さくガッツポーズをした。自転車を押して葵に歩幅を合わせる。
「先輩もうすぐで冬休みですね」
「そうだな」
「クリスマス用事ありますか?」
「ない」
クリスマスなんて僕には無縁のものだ。毎年クラスのカップルがお揃いのストラップやらマフラーやらを着けているのを外で見かける。その度に僕はクリスマスが嫌になった。
「先輩、クリスマス…デートしませんか?」
だから、この時言われた言葉の意味が解らなかった。まさか僕がそちら側になるなんて想像もしていないから。
「えっと、なんて?」
「だから…その…クリスマス一緒に買い物しませんか」
葵は先程の言い方が恥ずかしかったのか言葉を変えて言い直した。
寒くて仕方ないはずなのに顔が手が熱くなるのがわかる。
「全然良いけど…」
僕は小さく返事をした。お互いに顔も見れないまま静かに時間が過ぎた。葵の家の近くまで来てようやく葵が僕の手元を見た。
「それじゃあ、ここで」
「うん」
「またね」
小さく手を振る彼女を眺めながらただ僕は先ほどの事を反芻していた。
異性からデートに誘われたことなんて生まれてから一度もない。僕は白く浮わついたこの感情をどうにか整理しようと目一杯自転車を漕いだ。

夏は嫌いだ。服は汗で臭くなるしベタつく。動きたくないほどに暑いし何より虫が多くなる。
「葵ー待ってよー」
先頭を走る姉の葵につれられて夏休みにこうしてランニングをしている。私はこんな虫暑い日に何をしているんだろうと考える。もともと私は運動が嫌いだ。疲れるということが本当にめんどくさい。なのに、葵に一緒にやろうと言われるとどうしてか断れない。
「茜《あかね》ー遅いよー早くしないと日が暮れるよ」
「ちょっとペース落としてよ」
息を切らしながらも足を前へ動かす。首もとに滴る汗が気持ち悪い。
「先行くよー?」
百メートルくらい先で葵が手を振っている。私達は双子なのに何故こんなにも違うのだろうか。葵は成績は悪いが運動神経は抜群に良く、人柄も良いため友達も多い。私は成績は中の上で良い方だが運動神経は悪く、人見知りのためうまく人付き合いが出来ず友達は少ない。その上ネガティブな思考ときた。一体どこでこんなにも差がついてしまったのだろう。
私は一度立ち止まって息を整える、先を行く葵の背中がどんどん遠くなっていく。
「お姉ちゃん!」
私はすぐに後を追いかけたけど葵の背中は遠ざかるばかりでもう二度と追い付くことはできない。
「茜ー」
玄関の方から母が私を呼んでいる声で目を覚ます。
「なに、お母さん」
「お母さん買い出し行ってくるから部屋の掃除しといてくれる」
「うん。わかった」
「それとクリスマスプレゼント何が良い?」
「まだ決まってないや」
「そう、早めに言ってね」
「わかった」
クリスマスその単語を聞いて少し胸が鳴るのが早くなるのを感じる。私は罪悪感と嬉しさが混ざったこの感情が気持ち悪くなってソファーに飛び込む。十二月二十五日私は好きな人とデートに行く約束をした。こんなのは間違っているとしても私は彼の事を好きになってしまった。
「はぁ」と溜め息をつく。気持ちを切り替えるために母に言われた掃除に取りかかった。
一通り掃除を終えて時計を見る。はじめてから二時間は経っていた。ふと、目に入ったのは家族写真だった。母と私と葵が笑顔でピースしていた。確か、これを撮った日は葵の誕生日だった。父がスマホでいきなり写真を撮ろうなんて言って撮ったものだから父は写っていない。私は、この写真が嫌いだ。こうして切り取られた時間が私を過去に縛るから。これは責任転嫁だ。私だってわかってる。でも、こうでもしないと私は葵になれない。
写真立てを伏せたときスマホがなった。
『葵クリスマスの事なんだけど』
先輩からの連絡に少し頬が緩む。でも、この関係ももう少しで終わる。
私は最後まで演じる。終わりが来るとしても。その日までは彼のとなりにいれるから。

「最近何かあった?」
彼女が僕の顔を覗き込んで不思議そうに言った。
「ああいや、なにもないただぼーっとしてた」
放課後の誰もいない教室で僕たちはいつもこうして話し合いをする。いつも放課後なのは、休み時間は彼女の周りにはいつも人がいて僕が入る隙なんて無いことと、口数の少ない陰の者がいきなり彼女のような人に話しかけてしまえば僕だけじゃなく彼女が誤解されてしまう。彼女は学校にいる時は基本無口なのだが割りと人気者で周りにはいつも数名の生徒がいた。だから、僕が近くにいるのは迷惑だ。彼女はあまり気にしていないようだが、僕は気にする。だからこうして放課後に話し合いをする事にした。
それに、こうして放課後に二人で教室にいるのも悪くない。
「それでさ、佐藤くん十二月二十五日の土曜日空いてる?」
僕は思わず飲んでいたお茶を吹き出しそうになる。
「大丈夫?」
「うん大丈夫」
一度心のなかで深呼吸をする。
「ごめん二十五日用事があって行けない」
「そっか…わかった」
彼女は顎に手を当て考えるようなポーズを取る。
「もしかしてさ、彼女でもできた?」
「違うよ」
否定はしてみたものの最近何かと葵の事を考えているのは事実で言葉に詰まった。
「ふーん、あっそれよりさ」
思い出したようにスマホを取り出して画面を見せる。そこに載っていたのは海の近くにあるジオスポットだった。ここなら僕も行ったことがある。海によって削られてできた空が見える自然洞窟で、昼は太陽の光が反射してゆらゆらと揺れているのが印象に残っている。
「じゃあ、ここに行こう。再来週の月曜日ね、確か二十四日から冬休みでしょ?で、二十五日は佐藤くんがこれないし二十六日は私が用事ある。だから、二十七日に学校集合ね」
僕が入るまもなくどんどん話が進んでいく。まあ、僕が何か言ったところで結局行くことに変わりはない。
「わかった」
僕がそう言うと彼女はスマホにメモをして「じゃっ帰ろっか」と鞄を手に持って教室から出ていった。来週僕は、はじめて、デートというものをする。彼女に相談して色々決めた方がいいのかと考えてみたが最終的には自分でやってみることにした。教室に残っていた暖気が冷気へと変わっていく。そろそろ帰るか。そう思ったときにはもう外は暗く時計を見ると六時になろうとしていた。教室の窓から外を覗く。誰もいない道を辿っていく。何もないので特に面白くもないが少し落ち着いた。田舎なので星空も綺麗に見えた。

寒い寒い。時刻は六時過ぎ。部活終わりのこの時間は書道部の部室から出ると一気に冷える。
「茜ーまたねー」
振り返ると部室の奥で 品川《しながわ》 由紀《ゆき》ちゃんが手を振っていた。
「うん、またね」
私はお得意の笑顔を作ってその場を去った。一年三組それが私のいるクラス。電気は消えており、閑散とした教室は少し私の心を寂しくする。窓から見える空は不思議なくらい星が綺麗に見える。星を数える度に私は姉の事を思い出す。お揃いの服を着るのが嫌で、喧嘩したことやどっちが一つしかないプリンを食べるかなんて事で言い合いになった。そんな、些細な日常。
「あれ? 葵なにしてんの」
不意に姉の名前を呼ばれ勢い良く振り返る。
「なんだ、先輩か…先生かと思って焦ったじゃん」
私はすぐさま姉《あおい》のふりをする。これは姉への贖罪だ。けどもう、私はそれを守れそうにない。私は私が解らなくなってきている。
「葵も今から帰り?」
彼の言葉に甘えるように「そうだよ。一緒に帰る?」と彼を誘ってみる。
「ごめん、今日は早く帰んないとだからまた今度で」
「ん」と小さく頷くと彼は行ってしまう。
「悠真!」
咄嗟に名前で呼んでしまった。彼が驚いたように私を見ている。私は慌てて「またね」と彼を追い越していった。外の空気は澄んでいて私はその空気を大きく吸って吐く。何故彼の名前を呼んだのか。あの場に置いて私は姉だったはずなのに。私は、私は…一体誰なんだろうか。そんな考えは答えなんて出るわけもなくただ時間だけが流れていった。
翌日由紀ちゃんから連絡があって今日は部活も休みなので遠出をして都市部の方まで遊びに来ていた。
「茜!」
そう呼ばれると同時におでこに痛みが走る。すぐにそれがでこぴんだと理解した。席の前を見ると心配そうに由紀ちゃんが私を見ていた。
「茜今日大丈夫?」
「なんで?全然元気だよ」
「茜なんか今日上の空だから何かあったのかなって」
「ううん、なにもないよ」
彼女の心配を無下にするのは少し気が引けたが、相談できるわけもない。由紀ちゃんは、私の家の隣に住んでいて家族とも交流がある。姉とは親友と呼べる程仲が良かった。そんな彼女にこんなことを相談出来ない。
由紀ちゃんは少し顔を曇らせたがすぐにまた笑顔に戻すと運ばれてきたパンケーキを切り始めた。
「なんでもないなら良いけどさ、困ったことあったらなんでも言ってよ」
彼女の優しさに心が痛んだ。
その後は、できるだけ心配をかけないように目の前の事を全力で楽しんだ。いや、楽しんでいるふりをしたの方が正しいのかもしれない。
「今日は楽しかったね」
隣でソフトクリームを食べていた由紀ちゃんがオレンジ色になった空を見ながら言った。
「そうだね、楽しかった。また、冬休みになったらもっといろんな所に行こうよ」
「いいね、今度は--」
彼は気付いているのだろうか。私が姉ではないことに。彼は解っているのだろうか。私が貴方を好きなことを。夕焼けの雰囲気に物思いに耽る。
「茜はさ、好きな人とかいるの?」
いきなり由紀ちゃんがそんな話題に誘う。
「いるよ」
思ったよりも違和感なく出たその言葉に胸の奥がモヤモヤする。
「え!誰々?」
由紀ちゃんが私の事を目を輝かせて見ている。
「内緒」
私は人差し指を口に当てて悪戯に笑った。
「えーー」
「そういう由紀ちゃんはどうなのさ」
「私は運命の人を待っているのです」
「運命の人ね」
「あー、子供っぽいとか思ったでしょー」
「いえいえ、そんなことは御座いませんよ」
私はからかうように笑う。そんな私に由紀ちゃんは頬を膨らませた。
「でもさ、良くない?もし本当に運命の人がいたら。ロマンチックじゃない?」
確かにそうかもしれないが運命なんて物は存在しない。それは身に染みて解っている。もし本当に運命なんて物があるのならきっとこの場にいたのは姉の方だから。
「そうだね」
私は思ってもいないことを言う。その度に私は心のモヤが増えていく。
「でも良かった」
「何が?」
「茜に好きな人がいて」
「なんで?」
「茜、葵が居なくなってから心ここに有らずって感じで私心配だったから、だからなんか安心した」
彼女が私に向けた笑顔は純粋で私は、胸が押し潰されそうでこの場から早く去りたかった。
「私ここで」
電車から降りてすぐに私はそう言った。
「え?もう少し一緒に帰れるけど…」
「よりたいところがあるんだ、だからここで」
そんな適当な嘘をつく。
「おけ、気をつけてね」
「由紀ちゃんも」
私は一目散に駆けていく。当てなんてないけどとにかく一人になりたい。体力がなくなるまで走ったけど書道部の私に運動系の部活をしているような体力はなくてすぐにバテてしまった。
冷えた海風が髪をなびかせる。走って上がった体温が冷めていくのがわかる。私は階段を下りて砂浜にたつ。日が海に沈む。空を見上げると一つの星が勇ましく光っていた。それがなんだか羨ましくて思わず、スマホのカメラに納めた。
「あれ?珍しいな」
後ろから声をかけられ振り返る。
「こんにちは」
「うん、こんにちは。写真撮るの好きなの?」
制服は私と同じように見えるこの人は少し前に話題だった転校生の東雲 香帆さん。最近は話題の熱も冷めてきていたが、私達のいるの学校で一番可愛いのではないかと男子たちが話していた。私はどこに立っていても様になる彼女を見て、確かに男子たちの言っていたことに納得した。艶やかな髪に優しい口調、整った顔まるで欠点がない。
「いえ、なんか衝動的に」
「そうなんだ、私はね写真撮るの好きなんだ」
「そうなんですか」
「そうだ折角だしさ、私と勝負しない?どっちがこの海を綺麗に撮れるのか」
「いや、私そんなに写真撮ったことないですしきっと先輩の方が綺麗に撮れますよ」
「この辺でよし、ほらこっち来て!」
この人、人の話を聞かないタイプだ。仕方がないので私は流されるようにして勝負に乗ることにした。もちろん本気で勝とうなんて思ってもいない。そもそも、勝てないだろう。写真を撮るのが好きだと宣言しているのだからきっと沢山の写真を撮って来たんだろう。
彼女は鞄から高そうなカメラを取り出した。
「すごいですね」
「あーこれ貰い物なんだ」
それでも十分すごいと思うけど…
カメラに向かう彼女に海から吹く風が強く当たる。それでも彼女は顔一つ変えずカメラを覗いていた。暫くしてパシャッと快活な音がした。
「うん、わりといいのが撮れた」
自分で撮った写真を見て彼女は満足そうに言った。
「今度は君の番」
彼女は私をカメラの前に立たせる。
「私もこれで撮るんですか!?」
「そうじゃないとフェアじゃないでしょ?」
当然のようにそういい放つ彼女に困惑しながらも少しワクワクしていた。
「簡単に説明するね。ここを回すと倍率を変えれて、ここでシャッターを切れるよ。後は君がいいと思う場所を探してみて」
彼女は数歩後ろに下がった後その場にしゃがんだ。
「ほら、早くしないと日が暮れちゃうよ」
手で払うような動作をした後彼女は楽しそうに目を細めた。
私は急いで場所探しに移った。正直どこから見ても景色なんか同じだろうと思っていたのだが、その考えは百八十度変わった。些細な光の加減、背景に写り込む岩や木そして時間。その全てが私好みになるところはなかなか見つからなかった。日も暮れかけでそんなに時間のないなか私はシャッターを切った。そこで冷静になる。私は一体何にこんなにもむきになっているのだろう。こんなところいつでもこれる、そもそも彼女に勝てるはずがないのに。
「撮れた?」
首をかしげながら彼女がカメラのなかを覗く。正直余り見てほしくはなかった。彼女から見たら稚拙な写真だろう。
「いいね、綺麗じゃん。でもなんか焦ってる」
「…そうですか?」
私はもう一度自分の撮った写真を見る。
「焦りですか?」
「うん」
まじまじと写真を見られるのは緊張した。だって、その瞳は真剣そのものでじっと私の撮った写真を吟味していた。そんなに大層なものではないだろう。
「写真ってね意外とその写真を撮ってる人のその時の心を写し出すんだ」
「そうなんですか」
「うん、これは私の勝手な考えなんだけどね。なんかこう自分だったらこんな写真撮るときはこんな気持ちだなーみたいな。…言い換えるなら写真は心のシャッターなんだ。だからね、私が言えるのは焦らなくても一つ一つゆくっり君のペースでやっていけば良いと思う」
私はあまりいきなりな事だったため黙ってしまう。
「…もしかして的外れなこと言っちゃったかな?」
「いや、先輩すごいなって…」
「そうかな」
そういって照れ臭そうに笑う彼女に私は強い憧れを抱いた。私もいつかこんな風に楽しそうに笑える日が来るのだろうか。