「いや、でも明里さんは生徒さんよりも一緒に働いたほうがいいんじゃない?」
 と李仁。モヒート二杯目を手にした小林はああ〜と。当の明里はエッという顔をしている。
「ほら明里ちゃん、今の職場辞めたかったんじゃないの?」
「そうですけど本格的にジムに通ってまだ数ヶ月だし……運動経験なんてないし。経理とかも知識ないし」
 仕事も医療事務しか経験がない明里。急に小林の下で働くと言ってもと狼狽える。

「わたし、明里ちゃん素質あると思うの。一緒にレッスン受けててしっかりこなせてるし、真面目だし」
 李仁が言うと小林もうなずく。
「うんうん、ずっと思ってた。器具のやり方も一回で把握してくれたし体も柔らかい。勉強すればすぐにでも率先力になるな、インストラクターの」
「インストラクター?! 無理、無理!」
 今まで表舞台というよりも裏方タイプだった明里。インストラクターなんてましてや……と。

「そうだ、今から僕のスタジオ見に行かない?」
「今からですか?」
「うん。あ、李仁さん。なんかテイクアウト出来るものあります?」
 急展開に明里はさらにあたふたする。
「はい、トルティーヤとサラダ。あと二人ともコーヒー。お手拭きも箸も入ってるから」
 手早く李仁は出したのだ。

「じゃあ行きましょ、明里さん。スタジオで体動かして今日の嫌なことをスッキリさせましょう!」
 と小林は微笑んだ。
 明里は気持ちを落ち着かせ、今まで自分のことをしっかりと見てくれた小林のことを思い返した。

 そして彼女は決意した。
「はい、行きましょう! じゃあ李仁さん。ここにきてよかったわ」
「またいつでもいらっしゃい」
 と李仁は見送った。二人が店から出て行くと
「本当は……小林くんの事好みだったのよねぇ」
 と眉を下げた。