となると明里が行くところはあそこしかない。ムーンライトメロディ。

 重い気持ちでドアを開ける。
「いらっしゃい」
 卒業、とも言いながらも今日も優しくむかえてくれる李仁。

 今日も客は多い。そんな中でも今にでも泣きそうな明里。すると見覚えのある後ろ姿の男がカウンターにいた。


「……明里さん、こんばんは」
 その男は振り向いた。
「小林さん!」
 そう、小林だった。少しラフな格好で明里を見るなり席を隣に移動して席を譲った。
 李仁も水とお通しの貝割れ大根のサラダを置いた。
「こんな時間に……ディナー、中止になったの?」
 李仁にそう聞かれた明里は一気に涙を流す。その姿を他の客に見られないように小林が大きな背中を縦にした。

「そういえばそうだったね。話聞いてあげるよ」
「すいませぇん……本当はジムに行って発散させようと思ったんですぅ。でも小林さんが辞めるって聞いて……ここにきて……小林さんがいたから、ついほっとして」
「……聞いたんだね」
 明里は頷いた。小林は飲んでいたモヒートをグイッと飲み干した。少し酔っているようだ。そして大きくため息をついた。
「独立したいって一年前から社長と相談してたんだけどさ、給料上げるから出ていかないでって」
「小林くんはあのジムで人気のコーチですもの」
 李仁は小林のカラになったグラスを下げた。

「でも僕は独立してパーソナルジムやりたいっていう夢があって……資金も施設も調達できたからそろそろと思っても社長がダメって言うんだ」
「……小林さんがあそこ辞めたら私、ジム辞めますよ」
 明里は居場所の一つが無くなるのかと思うと悲しくなった。

 すると小林が明里の手を握った。
「だったら僕のパーソナルジムのお客さんになればいいじゃない」
「あ、そうか……」