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 お医者さんの言った通り、数日後、楽久くんは目を覚ました。

 「楽久!楽久!やっと目覚めた!良かった!大丈夫か!?俺のせいでほんっとにごめん!」

 涙を隠すことも無く、騒ぎ立てた櫂晴は、少し離れたところで、涙を拭う両親よりも勢いよく楽久くんに飛びついた。

 偶然にもその時間は放課後で、私と琴音もお見舞いに顔を出していた。

 「楽久……良かった」
 「ああ」

 両親の涙を見て、私の目からも涙が零れていた。

 良かった。私も不安だったんだ。

 とにかく櫂晴や琴音が心配で、自分を奮い立たせていた数日間。
 必死で頭も正常に回っていなかったのだと思う。
 安心して初めて、自身の感情が自覚された。

 ぼんやりと櫂晴の顔を見つめていた楽久くんは、少し口角を上げた。

 元々口数の少ない彼だから、その様子はいつも通りに見えて、私と琴音は目を見合わせて微笑んだ。

 「え……楽久?なぁ、何か、喋れよ」

 焦ったような櫂晴の声を聴くまで、私たちは楽久くんの異変に気付かなかった。

 「楽久?どこかおかしいの?大丈夫?」

 楽久くんのお母さんが不安げにそう尋ね、私達もゆっくりとベッドへと近づいた。

 楽久くんは、片手を動かし喉に手を当てた。
 パクパクと口を数回動かすも、全く喉は震えず、彼は顔を顰めた。

 「……………」

 私は戸惑っていた。櫂晴も、楽久くんの両親も。

 「そんなに、すぐ話せないよね?看護師さん呼ぼっ!」

 冷静だったのは琴音だった。
 ナースコールをひと押しして、彼が目覚めたことを伝える。

 その様子に私は、冷静を取り戻した。

 そうだ、数日間寝てたんだし頭も打っていたんだから、そんなすぐには……。

 そう言い聞かせながら、大丈夫大丈夫と自分の心を落ち着かせていた。