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 「美雲、櫂晴が呼んでる」
 「え、なんだろ。楽久くんありがと」

 少し大きな喧嘩を経て、楽久くんとも親しくなった。

 「あーわり、今日休みだったら、琴音と居てやってくんない?」
 「うん、いいよ。図書館でもいい?」

 櫂晴の席へ行くと、琴音もその場にいて唇を尖らせる。

 可愛らしくて嫉妬してしまうような彼女だったけれど、そのあざとさは女子に対しても向けられるような天性のものだったということは、最近知った。

 「ほら!華梛はすぐ勉強のとこ連れて行こうとするもん嫌だあ」
 「文句言うなよ、ガキ」

 楽久くんは、親しくなるとかなり口が悪いようで、こんなにも可愛い琴音に、信じられない暴言を吐く。

 「うわーん、楽久マジ優しくない!櫂晴ーーー!」
 「あーもうはいはいうるせーな」

 早く練習に行きたそうな櫂晴に、私は改善案を提示した。

 「分かったよ琴音。ファミレスで勉強ならいい?」
 「……うん、邪魔しても怒らない?」
 「怒るよ」

 軽く事情を知ってしまった私を、櫂晴が琴音に紹介した日から、塾がない日は琴音と過ごすことも増えた。

 「七星。今日空いてる?」
 「空いてるよ」

 自席で荷物を片付けていた七星に声を掛けると、七星は平然と振り返る。

 「えっ!七星来るの!話し相手ゲットー!」
 「いや、私も今回の模試受けるから勉強するけど」

 七星と琴音も、話してみれば随分自然に仲良くできて、あんなにも離れていた世界は交わり始めていた。

 私の成績もまずまず。確実に受かるなんてことはきっと入試前になっても言えない大学だけれど。
 それでも着実に合格圏は見えてきて、私は充実した毎日を送っていた。