目が合った先生に驚いて、逃げようと身体を縮めると、それを止めるように彼の腕は更に強く肩を抱いた。

 「美雲が?お前そんな適当なこと……」
 「適当じゃねーし、見てくれるって話してたんだよ、な?約束したよな?」

 先生の言葉に被せられた言葉に、私は分かりやすく眉をひそめた。

 大嘘……。
 ちゃんと目を合わせるのだって数回目の人だ。
 そんな約束を交わすわけが無い。

 怪訝な顔をしていたと思う。
 そんな私にも動じず、彼は、信じられない程無邪気な笑顔をこちらに向けていた。

 私の苦手意識すら丸ごと飲み込んでしまうような、邪鬼の無い笑顔に一瞬驚く。

 だけど、驚いただけだった。そんな目で見つめられたところで、私は貴方の周りにいる女の子たちとは違う。
 可愛げなんてまるで無いのだ。簡単に絆されてなんてやるわけが無い。

 「本当なのか?そりゃあ、美雲なら安心だけど」

 若干の期待を込められた視線に私は首を横に振るつもりだった。

 だって別に、助けてあげるような義理もないし。
 そもそも2年生の夏にもなって受かる大学がないような酷い成績を取ったのなら、その分補習くらいは参加するべきなのだ。

 ーいえ、そんなことは言ってません。

 しかし、喉まで出かかったその言葉が発されることはなかった。

 「だろ!?つーわけで次のテストは期待しておいて!じゃ!」

 半ば強制的に話を切り上げた彼は、私に言葉を発する間を与えず、職員室を後にした。
 勿論、肩は組まれたまま、私も引きずられるように共に職員室から連れ去られる。

 男の子とこんな距離感になることは人生初めてで、どうしたって体を固くする私は、その力に抗うことは出来なかった。