⋆*
放課後ということもあり、教室へは帰らなかった。
だって、櫂晴の事は見られないし。
雨宮くんと会ってもどんな顔をしたらいいか分からないし……。
その場にずっと座って、ぼんやりとする私は、放心状態だった。
「美雲」
その教室に現れたのは、音坂くんだった。
まさかの登場だったけれど、それを驚くような元気すら私には残っていなくて、少しだけ振り返ることしかできなかった。
音坂くんは無言のまま後ろ手に教室の扉を閉め、出窓になっている壁に飛び乗った。
その慣れた行動から、この空き教室は、彼らのサボり場所なのかもしれないなとぼんやり思う。
「櫂晴ってさ、誰にでも笑顔向けるし、誰にでも優しいじゃん?」
導入から突然で、私は静かに目を向けて小さく頷く。
「あの笑顔はさ、自分を守るためなんだよ」
「守る……?」
言っている意味が分からなくて、静かに聞き返した私に、音坂くんは頷いた。
「あいつの一人暮らしの理由って聞いたことある?」
首を横に振った私に、彼は「だよな」と小さく零す。
「詳しくは俺からは言えねーけど。あいつにもいろいろあって。でも美雲には相当心許してると思う」
何を根拠に、と私は笑ってしまった。
自身を嘲笑うような乾いた笑いが出て、音坂くんとは目をそらす。
少なくとも、今日までの付き合いで、そんなことは思えそうになかった。
だって、そうじゃん……。
琴音ちゃんのことも大切にしているみたいだし。
「誰にだって優しくあろうとするのは、あいつの癖なんだよ。不機嫌になったり我が儘になったり、そんな姿を見れてるってことは、特別に思われてる何よりの証拠なの」
「でも……だったら、」
だったら、もっと説明してくれてもいいはずだ。
私には、櫂晴の考えていることが分からなかった。
「意外と繊細なんだよ。聞いてみたらいい。美雲にならきっと、話してくれるよ」
音坂くんの話は、信じがたい部分も多かった。
だけど、このままではいたくない。
真実があるなら知りたい。
彼の言葉は、ほんの少しだけ私に進む勇気を与えた。
放課後ということもあり、教室へは帰らなかった。
だって、櫂晴の事は見られないし。
雨宮くんと会ってもどんな顔をしたらいいか分からないし……。
その場にずっと座って、ぼんやりとする私は、放心状態だった。
「美雲」
その教室に現れたのは、音坂くんだった。
まさかの登場だったけれど、それを驚くような元気すら私には残っていなくて、少しだけ振り返ることしかできなかった。
音坂くんは無言のまま後ろ手に教室の扉を閉め、出窓になっている壁に飛び乗った。
その慣れた行動から、この空き教室は、彼らのサボり場所なのかもしれないなとぼんやり思う。
「櫂晴ってさ、誰にでも笑顔向けるし、誰にでも優しいじゃん?」
導入から突然で、私は静かに目を向けて小さく頷く。
「あの笑顔はさ、自分を守るためなんだよ」
「守る……?」
言っている意味が分からなくて、静かに聞き返した私に、音坂くんは頷いた。
「あいつの一人暮らしの理由って聞いたことある?」
首を横に振った私に、彼は「だよな」と小さく零す。
「詳しくは俺からは言えねーけど。あいつにもいろいろあって。でも美雲には相当心許してると思う」
何を根拠に、と私は笑ってしまった。
自身を嘲笑うような乾いた笑いが出て、音坂くんとは目をそらす。
少なくとも、今日までの付き合いで、そんなことは思えそうになかった。
だって、そうじゃん……。
琴音ちゃんのことも大切にしているみたいだし。
「誰にだって優しくあろうとするのは、あいつの癖なんだよ。不機嫌になったり我が儘になったり、そんな姿を見れてるってことは、特別に思われてる何よりの証拠なの」
「でも……だったら、」
だったら、もっと説明してくれてもいいはずだ。
私には、櫂晴の考えていることが分からなかった。
「意外と繊細なんだよ。聞いてみたらいい。美雲にならきっと、話してくれるよ」
音坂くんの話は、信じがたい部分も多かった。
だけど、このままではいたくない。
真実があるなら知りたい。
彼の言葉は、ほんの少しだけ私に進む勇気を与えた。