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 「美雲、もう行く?」
 「あ、私ちょっと予定あるから、先行ってて」

 いつも通り塾へ行く前誘いに来てくれた雨宮くんに、適当な断りを入れる。

 ダメだと言われた訳ではなかったけれど、

 櫂晴が不安に思うことはしたくない
 その気持ちで、雨宮くんとは塾へ行く時間をずらすことにしていた。

 深追いはせず、教室を出ていく彼を見送ると、隣の席から七星が立ち上がった。

 「予定なんて、無いくせに」

 文句のように口を尖らせ、後ろに集まる集団に目を向ける。
 その中心で、楽しそうに笑う櫂晴を、七星は睨んでいるように見えた。

 「気にしすぎじゃない?相楽に何か言われたの?」
 「ううん、私がね。そうしたいんだ」

 ほほ笑みを零しながら返す私は、浮かれているように見えていたと思う。

 この頃七星は、基本的に私達の付き合いを不満そうに見ていた。

 そんな日々が続いたある日。

 心の奥底に、無自覚で蓄積されていた黒い雲が、ついに大きな雷を落とす出来事が起こった。