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 「明日は?塾あんの?」

 帰り際、送ると言った櫂晴と肩を並べて歩く。

 「あるよ、模試また近いし頑張らないと!次は絶対C判定覆すから」

 両手で気合いを入れた私に、櫂晴は珍しくそっぽを向いた。

 「あいつも一緒?」

 満面の笑みで応援してくれる櫂晴が目を逸らしたことに少し違和感を感じた。
 そして、目が合わないまま聞かれた言葉に、首を傾げる。

 「あいつ?」
 「雨宮」

 冷たいような気がした。
 少し前を行く彼に、私は足を速めて隣に並ぶ。

 「雨宮くん?一緒だよ。学部は違うんだけど志望校も同じだね、頼りになるんだー」

 雨宮くんとは親しくない櫂晴に、紹介しているくらいのつもりだった。
 不自然に足を止めた櫂晴を今度は前から振り返る。

 「ちょっとは危機感持てよ」
 「危機感?」

 不機嫌に思えた口調は、勘違いではないようだった。
 櫂晴は、明らかに不満げな顔でこちらを見つめていた。

 あからさまに態度を変えた彼から、鋭い視線を真っ直ぐに受け止めて、私の心は、黒く陰っていた。

 雨宮くん、良い人なのに。なんでそんなに、嫌な顔をするんだろう……。

 「あいつ、絶対華梛のこと好きだから。あんまり隙見せんな」

 言い放った彼に、私は目を見開く。

 もしかして、心配してくれているのだろうか。
 嫉妬というものだろうか。本当に?櫂晴が私に?

 櫂晴は、そんなにも私のことを思ってくれているってことだ。

 嬉しい気持ちでいっぱいになり、黒く陰った心は胸の奥底へと帰って行った。

 「そんなの絶対何でもないよ!雨宮くんは友達だもん、でも心配してくれてるの?」

 嬉しさのままに、勢いよく尋ねると、櫂晴は顔を赤くして、足を速めた。

 「そりゃするだろ!大体俺がいるのに距離近すぎんだよ!お似合いとか言われてんのも腹立つのに!」
 「えーなにそれ可愛い!櫂晴ってそんなこと言うんだ」

 浮かれた私が彼を追いかけると、くるっと振り返った彼の胸に飛び込むことになった。

 「言うよ。華梛は、俺だけ見てたらいいんだ」

 ギュッと抱きしめられたその腕に、私は目を閉じる。

 心配しなくても、櫂晴しか見えてないよ。

 そんな恥ずかしいことははっきりとは伝えられるはずがないけれど。

 どうにかして伝えたくて、私はぎゅっと抱きしめる手に力を込めた。