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 「お前このままだとまじでどこも受からないぞ?」

 頼まれ事で職員室を訪れた私は、担任の席に先着の後ろ姿を見つけ、顔を顰めた。

 相楽くんがいる……。話、長いだろうなぁ……。

 途端に憂鬱になり、私は足を止めた。
 先日、直接会話を交わしたこともあり、なんとなく苦手意識が強まってしまっている。

 用が終わるまで待とうか悩んだが、私は意を決して、足を進めることにした。

 大丈夫。ノートを提出するだけだし……。

 自分に言い聞かせて、重たい足を動かし席へと赴く。

 「おお、美雲か。ありがとう」

 机に肘をつき頭を抱えていた先生は、パッと表情を明るくさせて私からノートを受け取った。

 よし、ミッションクリア。あとは、できるだけ静かに話を引き伸ばさないように。

 「いえ、じゃあ失礼します」

 隣からの鋭い視線になんて気付く余地もない速度で、私は踵を返す。

 「で、とにかく相楽は……」
 「あーはいはい。分かったよ、こいつに教えてもらうから。それでいいだろ?」

 突然、目の前に出された長い腕に、私はその足を止めることになった。
 至近距離から、相変わらずのキツい香水が香る。

 慣れない人肌に困惑していた私は、顔を顰めることも忘れ、硬直していた。
 夏服に変わり白いシャツから覗いていた程よく筋肉質な腕は、慣れたように優しく私に触れて足止めをする。
 程なくしてその腕は、優しさとは裏腹に、少し強引に私の首に巻き付けられた。

 反射的に逃れるようにくるりと回ると、自然と先生の方を向き返り肩を組まれる形になる。