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 なんとなくもやもやする日々は、変わらなかった。

 「華梛、今日塾休みだろ?帰ろうぜ」
 「うん」

 だけどやっぱり二人で過ごす時間は、夢みたいに幸せなのだ。

 「ん」

 黙って差し出された手のひらに、私は一瞬戸惑ってから周りを見渡す。
 まだ校舎を出てすぐで、周りには沢山の学生がいた。

 有名人の櫂晴と二人で歩くだけでも緊張するのに……。

 ためらっていた私の手を、彼は強引に引く。

 「え、ちょっと」
 「いいだろ!俺のだし!」

 にやりと笑って走り出す彼に、周りからの視線が痛かったけど、そんなのすぐ気にならなくなった。

 「ふふ、なにそれ」

 笑いながら、手を繋いで河川敷へと帰る。

 河川敷では、一番の特等席で、輝く彼を見つめられて、頑張る勇気を貰えて。
 私の毎日は、本当に幸せだった。

 これ以上はないと、本気で思っていた。

 「もう真っ暗だねー」

 隣に寝転んで休む彼とのんびり話す。

 「だな」

 起き上がった彼は、そのまま私の肩に腕を回し、覗き込むようにキスをした。

 「……っ!」

 身体を固くして彼の服をぎゅっとつかむ。
 その手を覆うように、彼の手が優しく触れて、私はその幸せに身を任せた。

 何度でも言う。
 私は、本当に幸せだった。

 だから、ほんの少しもやもやしていることなんてどうってことなかった。