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 櫂晴と付き合うことになって数週間。
 私達の関係は、所謂ラブラブなカップルとは異なっていた。

 「華梛、俺今日レッスンだから」
 「分かってる。私も塾だから、今日は河川敷行かないよ」
 「了解」

 そんなさっぱりした会話が成される様子を、七星は物珍しそうに見ていた。

 「レッスンレッスンって、あいつまじそればっかじゃない?華梛も塾ばっかだし、休み時間も勉強してるし、何か思ってたのと違うんだけど!」

 櫂晴が席へと戻ったあと、七星はあからさまな不満を口にした。
 何故本人の私達より、七星が不満を持っているのかは……まあ、なんとなく分かるのだけど。

 「いいの。付き合ったからって邪魔にはなりたくないし。私は櫂晴の夢を応援してるんだから」

 にっこりと笑みを見せると、七星は頬を膨らます。

 「マジ意味わかんない!だって、ぜんっぜん変わってないじゃん!いいの!?あれ!」

 びしりと指を差した彼女に、私は静かにその手を下ろさせた。
 彼女が差していた先には、教室の後ろ。彼らの定位置で、親しそうに笑う仲良しの集団。

 「ね、櫂晴!次の休みはいつ?最近全然来ないじゃん!たまにはいいじゃん!」

 その中心にいる櫂晴を誘う女の子の姿は、付き合いだす前から変わっていなかった。

 「やめて七星。そんな分かりやすく睨まないで」
 「だって!」

 信じられないといった風に声を荒げる七星を、宥める。

 「大丈夫だよ。ちゃんと連絡取ってるし、話してるし」

 怒りをあらわにする彼女の手前、柔らかく笑みを零すことしか出来ないけれど。
 正直に言うと、私も気になっていないとは言えない状況だった。