「し、知らないよ……だって、私なんて……」
 「俺の事好きでしょ?」

 脳内を回っているよく分からない言葉たちを適当につまみあげようとする。
 彼はそれを遮るようにその言葉を放った。

 「……えっ、えー……?」

 真っ赤になって、一歩後ずさった私を見て、櫂晴はまた笑った。
 余裕な彼とは対照的に、私は、さらに脳内をフル回転させる。

 バレてたんだ……。でもそうだよね。
 私みたいな恋愛初心者と違って、彼は百戦錬磨のモテ男だもん。
 女の子の好意を察することなんて余裕でもおかしくない。

 だからといって、答えが決まっていてもその言葉ななかなか出ない。
 必死の思いで言葉を選び、開こうとした口をまた閉じ、また開き。
 ずーーっと、うじうじと黙っている私を彼は面白そうに眺めていた。

 「……そう、かも……?」

 そして、やっとの思いで呟いた言葉も残念ながらはっきりしないものだった。

 「そこまで疑問なのかよ。いーけど、伝わってるし。そんで、俺も好き」

 待ちくたびれたのか、彼は間もなくさらっとそんな言葉を加えた。
 私はとっくにキャパオーバーだった。

 「えー……!?」
 「告白する理由、それ以上にいる?」

 力が抜けるような思いで彼を見ることしかできず、へにゃへにゃとその場に座り込む。

 「アピールしてたつもりなんだけどな……」
 「し、知らない知らない聞いてないよ……!?」

 こちらを見下ろす彼に、視線を向けることができず、私は項垂れるように首を振った。

 「あはは、じゃあ聞いてよ。こっち向いて?」

 笑いながら隣に座った彼をちらりと向くと、待ち構えていた彼の唇が触れた。

 時間が止まったと思った。

 少し離れ、静かに見つめられた時間に、目を閉じる。
 もう一度ゆっくり触れた唇は、忙しく動き続けた私の頭を真っ白にさせた。

 「好きだよ、もうずっと前から」
 「……っ!!」
 「まじで飽きねー、可愛すぎ」

 声にならない声を上げる私を、彼は面白そうに見つめていた。