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 きっとコンテスト前だから、サボって練習している。
 放課後になって、そう気付いた私。

 なんとなく早足になる通学路を進み、土手の上から河川敷へと目を向けると、彼は思った通り、そこで踊っていた。

 思わず足を止め、土手を下ろうか迷う。

 櫂晴の踊りには、魂が宿っている。
 曲に込められた思いを自分なりに噛み砕き、その気持ちまで、踊りで表現するのだ。

 指先までこだわったひとつひとつの動きに結局目を奪われた私は、土手に腰を下ろし、しばらくその姿を眺めていた。

 何度も何度も同じところを繰り返し確認する。
 その所作は、初めて見た時よりも滑らかに自然に動いているように見えた。

 しばらくして彼はこちらを見上げ、驚いた顔で口を開けた。

 「お前、いつからいた!!」

 勢いよく叫ばれて、私は笑みをこぼす。自然な笑みだった。

 苦手だと思っていた。絶対に交わらない人だと思っていた。

 櫂晴に対して、こんな笑顔を見せられるようになったのは、いつからだったんだろう。

 「ちょっと前!!」

 そう叫び返して、私は彼の元へ掛け下りる。土手を下るのも上手くなった。
 それくらい、私と彼とは濃い時間を過ごしてきた。

 駆け下りた先、驚いている彼の表情は気にせず一目散に飛びついた。

 「えっ、お、おい!」

 戸惑いの言葉を無視して、私は彼の首に腕を回す。

 「お母さんが、認めてくれたの!言えた、私ちゃんと伝えられたよ!」

 朝からずっと伝えたかった。
 私に、夢を追いかけることの輝きを教えてくれた彼に、きっと一緒に喜んでくれる彼に。

 日中抱いていた気まずさなんて、櫂晴の変わらない笑顔を見た瞬間に消え去ってしまっていた。
 嬉しさのまま抱き着いた私を、櫂晴は棒立ちのまま受け止めた。

 「良かったじゃん」

 賑やかに盛り上がってくれると思っていた。
 そんな彼が、優しく眉を下げた。柔らかく、幸せそうに笑ってくれた顔を私は一生忘れないと思った。

 嬉しくて、噛み締めるようにギュッと腕に力を込める。
 その腕に応えるように、されるがままだった彼の腕がそっと私の腰に回された。

 優しく触れた手の感触に、私は急に冷静になり、慌てて彼から離れた。

 「……なんだ、今日はめちゃめちゃ積極的だと思ったのに?」

 「ば、ばかじゃないの!?そういうのじゃないよ!ただ嬉しくて……!」

 感情が溢れた。
 説明しがたい自分の行動をどうにか正当化しようと、頭を必死で動かす。

 その思考を停止させるように彼の腕は私を引き寄せた。

 「うん、俺も嬉しい」

 穏やかで温かい声だった。力を込めて私を引き寄せながら、もう片方の手は優しく髪に触れる。
 その温かさに、私は黙って身を委ね、もう一度、静かに腕を回した。