再び、後ろでひそひそと笑う声が聞こえ、私は悔しさで頬を赤めた。

 「美雲さんって、いっつも真面目で真っ直ぐでほんっと優等生!」
 「ね!凄いよね!私達とは違うなぁ……。櫂晴もそう思わない?」

 良い言葉ばかりが並べられているのに、棘を感じるのはどうしてだろう。
 言葉の裏側に隠す気のない本心が、漂っているからだろうか。

 不真面目なのに、全校生徒から人気でいつも輪の中心にいる、彼らふたり。
 彼らに擦り寄るために、私を落としているようにも聞こえる言葉に、私はため息をついた。

 ……必要ないのに、関わるはずなんてないのだから。

 ちらりと目を向けると、階段の上からこちらを見下ろす相楽櫂晴と視線が交わった。
 真っ直ぐに交わる輝いた瞳に、居心地の悪さを感じ階段の手すりへと視線逸らす。

 「……だな、尊敬尊敬〜!」

 カラッとした笑顔を見せた彼は、再び歩き出し階段を下っていった。
 横を通るきつい香水の香りに顔をしかめる。

 彼らが通り過ぎたあとも、ずしりと重たい両足をそのままに、私はその場に立ち尽くしていた。
 鳴り響くチャイムの音が、その足を無理やり動かし、教室へと向かわせた。