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 たった二人きりの家族なのに。
 気まずい空気は変わらないまま、1週間が経過していた。

 あの空気の家には帰りたくない。

 性懲りも無く逃げ続ける心に従って、塾のない日は櫂晴のいる河川敷で勉強をしていた。

 日が短くなってきた秋の終わり。

 塾の日は、自習室で22時までは残って勉強ができるけれど、河川敷で勉強出来る時間はどんどんと短くなっていた。

 「見えなくなってきたから、もう帰るね」
 「おー!頑張れよ!」

 暗くなってからも練習を続ける櫂晴には、それだけ告げて、家へは帰らず近くのファストフード店で勉強をしていた。

 夢に向かって頑張り続ける櫂晴には心配をかけられない。
 それに、夢を貫くことのできない自分が情けなくて言えなかった。

 学校からの帰り道にあって、賑やかすぎる店内。
 こんなのじゃ、集中力はどうしたって削られている。

 C判定だった模試結果を、何とか受験までに持ち直さなければいけない。
 こんな風に足踏みをしている時間はない。

 だけど、家に帰ると母の視線が痛い。諦められないし進まなきゃいけないのに、どうしたって……。

 「何やってんだよ」

 暗くなる気持ちを留めたのは、聞きなれた男の子の声だった。

 突然声をかけられ驚いて顔を上げると、そこには櫂晴と音坂くんが居た。

 櫂晴は、まだまだ練習中のはずの時間。

 ぱちくりと目を見開いた私に、ふたりは顔を見合せて笑う。

 「俺が見かけて櫂晴に伝えたんだ。最近結構な頻度でいるっしょ。家で勉強出来ないの?」

 席に座った音坂くんに、私はぎゅっと下唇を噛む。

 このお店は、音坂くんたちがよく訪れる場所で、私がここで勉強していることに少し前から気付いていたらしい。