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 「お母さん、話があるの」

 22時過ぎ、残業から帰ってきた母に、作り置きのおかずを差し出して私はダイニングテーブルに腰を下ろした。
 母は、珍しい私の様子に、着替えるのもそこそこに腰を下ろす。

 「今回の模試結果なんだけど」

 すっと差し出した1枚の紙。
 母は一度私に目を向けてから、その紙に視線を落とした。
 今まで第一志望欄にずっとあった地元の大学は、今回第二志望にある。

 「凄いじゃない。今年に入ってからずっとA判定?もう余裕ね」

 お茶をひとくち飲んで嬉しそうに頬を弛めたあと、母は、こちらに視線を向けた。

 「この大学は?また有名な大学書いてるけど、力試し?」

 やっぱり、母の目には止まる。予想していたその言葉に私は震える口を開いた。

 はっきりと言うつもりだった。

 だけど、身体の震えが、湧き上がる熱が……。もうずっと母が帰宅する1時間前から心拍数を上げていた心臓が、私の全てが決意の邪魔をする。

 「ここ、気象学が学べるの。だから少し、興味があって」

 逃げてしまいたい感情を全て振り払うように出た言葉は思ったよりもずっと、柔らかい言葉だった。

 「私は、反対よ」

 ヒステリックに怒鳴る訳ではない。
 モンスターペアレントが常駐化する世の中において、家の母親は、比較的穏やかな方ではあると思う。優しいし子供想いだ。