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 返ってきた模試結果をいち早くポストから回収した私は、開くことが出来ないまま、その封筒を持ち歩いていた。

 今までにそんなことはなかった。
 母にいつ開けてもらっても構わないから、発送日なんて覚えてもいなかったし、恥ずかしげもなく机に広げることすら出来ていたくらいで。

 行ける範囲の安定したA判定に見慣れていた私は、震える手で、封筒に入れたままの模試結果を持って、学校にいた。

 「雨宮くんは当然A判定だよねー」

 今まで通り、彼の席では何人かの友人が集まり結果を交流しあっている。

 今までは私もそこにいた。だけど今回は、自信が無い。開いてしまって現実を見たらまた私は逃げてしまうかもしれない。

 そのまま鞄に入れようとした私の手を、温かくて大きな手が止めた。

 「見ねえの?」

 最悪だ……。

 直感的にそう思った。彼の目からは逃げられない。
 櫂晴は、どうしたって私が追いつきたい人なのだから。

 ずっと、夢と向き合い続けている彼の前で、これ以上私は情けない自分ではいたくないのだ。

 「見る……見るけど……」

 震える手で、彼との間にその封筒を上げる。

 「一緒に見て、くれないかな……」

 カタカタと情けないほどに音を立てて擦れる紙に、彼は優しく微笑んだ。
 彼がいたら、私は逃げられない。

 だけど、それくらいでいいのだ。
 それくらいじゃなきゃ、私は彼についていけないのだから。