何も言わなかったけど、その表情が、素直に答えを述べていて、私は思わず声を上げて笑った。

 「えー!あはは!」
 「ばっ、急に何言ってんだよ恥ずかしい!」

 焦ったように片手で顔を覆った音坂くんは、なんだか可愛かった。

 クールで飄々としていて、掴めない。
 目の奥が笑っていなくて感情が読めない。

 そんなイメージだった彼は、もうそこにはいなかった。

 「えーなんだ。みんなと一緒に笑ってるから馬鹿にしてるんだと思ってた」
 「んなわけねーだろ、俺はずっと見てんだよ」

 小さくため息をついた彼は、汗を拭う櫂晴に視線を向ける。

 そうだよね、あんなに一生懸命な姿見たら、応援しないわけがないもん。
 でもだったら……。

 私が、モヤっとした事を感じ取ったように、音坂くんは口を開いた。

 「櫂晴の努力を笑う空気はずっと嫌だった。だけど俺は、今更止められない。だからあの日、美雲が怒ってくれて嬉しかった」

 こちらを見た音坂くんは、恥ずかしそうだった。
 感情を出すことが、本当に苦手なんだなと思う。

 「あいつは強いけど、美雲が応援してくれるようになってからは、もっと強く夢を追うようになった。
 だから櫂晴には、美雲みたいな、真正面から思いを伝えてくれる人が近くに必要なんだと思うよ」

 それでも、ひとことひとこと言葉を紡いだ彼は、限界を超えたように、土手に倒れ込んだ。

 「なにそれ、音坂くんが素直に伝えてあげたらいいだけじゃないの」

 本当は、音坂くんの言葉が、それこそ踊り出してしまいたいくらいには嬉しかったのだけど。
 強がりな私は、平然を装って、そんなツンケンした言葉を返した。

 「無理、俺は影で支えるだけで精一杯」

 小さく笑った彼に、私は笑みをこぼす。

 「音坂のおかげで練習時間が貰えてる」
 以前、櫂晴が言っていた言葉が繋がっていた。

 今日みたいに、音坂くんが、友達関係を崩さないように上手に立ち回って、櫂晴を助けてるんだ。

 はっきりと言葉にはしないけど、誰よりも応援していて、それを櫂晴も分かっている。

 男の子の親友は、こんな感じなんだ……と、私は静かに納得していた。