⋆*
 遠目に聞こえる音楽と、地面を蹴る靴の音。
 心地よい雑音の中で、参考書を開き、鞄の上でシャーペンを走らせる。

 カラオケに行くと言った友人たちを見送り、ひとりで教室を出た櫂晴を、私はすぐに追い掛けた。

 夕方の涼しい風に吹かれ、耳慣れた音の中でする勉強は、信じられないくらいに捗っていた。

 「お」

 バンッと、大きな音を立てて何かをキャッチした櫂晴。
 音に驚いて顔を上げた私は、彼の視線を追って土手の上を見上げた。

 「おつ」

 そこには、カラオケに行ったはずの音坂くんが立っていた。
 櫂晴に差し入れたのと同じスポーツドリンクを持って私の隣に腰を下ろす。

 「あ、ありがとう……」

 手渡されたそれに、私は恐る恐る手を伸ばした。

 勉強している私の隣に座ったからだろうか。
 ゲームを始めることも無く、ただじーっと練習する彼を眺める音坂くんに、私は考えながら口を開いた。

 「今日カラオケ行ったんじゃ……?」

 音坂くんは、ゆっくりこちらに視線を向けて、軽く笑った。

 「2時間も行けばみんな満足でしょ」

 なんでもないように呟いて、そのまま飽きずに、彼のダンスを見続ける。
 その目は、目の前に出された大好きなものを見るように輝いていた。

 「音坂くんって、もしかして……櫂晴の夢、めちゃくちゃ応援してる?」

 直感だった。

 彼が、教室で、櫂晴の夢を笑ったのを見ているし、だから彼のことは信用出来なかった。

 だけど、いま目の前で見た彼からは、馬鹿にしているような感情は読み取れなくて、それどころか、本当に誇らしそうに彼の姿を見ているように思えた。

 音坂くんは、驚いたようにこちらに視線を向け、みるみるうちに顔を真っ赤にした。