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 櫂晴の弱い一面を知った。そこから立ち上がる強い彼を見た。
 あの日、私は覚悟を決めた。

 私も、私の夢を追いかけよう。
 羨ましいと思っているだけじゃ変わらない。
 私だって、自分の望む未来を諦めたくない。

 そうと決めてからは必死だった。
 これまでとは段違いの勉強が必要だったから。

 お母さんに認めてもらうためには誠意を示さなきゃいけない。
 どうせ無理だと諦める前に、ちゃんと、自分の言葉で伝えるんだ。夢を追いたいって、ちゃんと。

 「今回、やる気だね?」
 「うん、出してみたい学校があって」

 目指す大学は、東京の大学。
 気象学が学べる学部があるこの大学は、奇しくも雨宮くんが受けるところと同じ大学だった。

 「雨宮くんと同じ大学なんだけど……。私、気象学が学びたいの」

 無理だって笑われるかもしれない。だけど、言わないことで逃げ道を作りたくなかった。

 ずっと誤魔化していた私の本当の夢を初めて口に出した。心臓はバクバクと落ち着きなく動く。

 雨宮くんは、驚いた顔でこちらを見つめていた。

 「うん、いいじゃん。いつもよりずっと活き活きしてるね」

 次の瞬間、優しく微笑んだ彼に、私はぎゅっと拳に力を入れて微笑み返した。

 否定されるのが怖かった。
 当然のように応援してくれる雨宮くんの優しさに頭が上がらない。

 もう彼に対して、ときめくことはなかった。
 元々あった気持ちすら恋だったのかも分からない。

 こういう人と結ばれるべきだ、間違えない人を選ぶべきだ。
 そんな心でなんとなく彼を魅力的に感じていた。
 その心はきっと彼にも見抜かれていたから、だからこんなにずっと一緒にいても進展することは無かったんだと思う。

 そして、明確にそれが恋ではないと分かった理由がもうひとつあった。

 「華梛!今回の模試も受けんだろ?頑張れよ!」

 話しかけに来る、その声だけで胸が大きく跳ねる。
 頑張れよという笑顔に勇気を貰える。
 交わるはずのなかった彼のことを、いつしか尊敬し心は動かされた。

 彼の一挙手一投足で、こんなにも心が揺れ動く理由を、私は薄らと自覚し始めていた。