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 「いつもならちゅーしてるとこだったね?」

 お手洗いに立った華梛。
 俺がひとりになったのをいい事に、ダイくんは意地悪く表情を変えた。

 ダイくんは、華梛の前では優しい仮面を被っているけど普段はからかって笑う、こういうやつだった。

 中学1年の頃、ふらふらとこの辺りを歩いていた時に、ここ"季節の家"を見つけた。
 その季節もちょうど秋で、焼き芋の美味しさに惹かれ定期的に訪れるようになった。

 上面の友達しか出来なかった中学時代。
 へらへらと過ごす毎日に疲れていた俺だったけど、ダイくんには自然体で会話をすることが出来た。

 きっとそれは、誰とも関係の無い知らない人だったからなんだけど。
 そんな日々を重ね、気付けばダイくんは、俺の唯一無二の理解者になっていた。

 俺はにやにやとこちらを見る彼を睨む。

 「やっぱ華梛ちゃんは特別なんだ。いつもつるんでる子とは雰囲気違うもんね、清楚で。俺タイプかも」
 「は!?ふざけんなまじでやめろよエロじじい!あいつはそういうやつじゃねーんだよ!」

 からかわれているのだ。
 そんなことは分かっているのに、思わず席を立ってしまった自分に恥ずかしくなる。
 俺の心の内を見透かしたようにダイくんは目を細めた。

 「お前も成長してんだね」

 嫌いだ。自分が子供だということを嫌という程思い知るこの目が。
 だけど、変わらない表情で見守ってくれる、何があっても変わらないと信じられる存在があるから、俺は夢を追い続けていられている。

 「うるせえ」

 毒を返そうとしていた言葉は、帰ってくる彼女の足音によって外へ出ることなく飲み込まれた。