「ごめん、大丈夫だった……?」

 すぐ真上から聞こえた男の子の声に、体勢を崩した雨宮くんは思いの外、私の近くにいたことに気付く。
 周りからの視線の熱に、なんとなく自分の頬も火照るのを感じながら、私は少し身を引いて小さく口角を上げた。

 「ううん、雨宮くんこそ。狭い所に立たせててごめんね」

 穏やかに言い合い、自席へと戻っていた彼を見送る。

 「あーいいなぁ。羨ましいなぁ。雨宮くん、華梛だけにはやっぱちょっと違うもん、いいなぁ、お似合いだしさぁ」

 最後まで席に居座る1年生から親しい七星に言われ「なにそれ」と誤魔化しながらシャープペンシルの芯を押し戻した。

 七星だけではなく、複数人からそう囁かれていることは知っていた。

 賢くて真面目で真っ直ぐな彼。
 間違ったことが嫌いで、誰にでも優しく振る舞う性格は、幼い頃から思い描いている私の理想の人であることには間違いない。

 今はまだ想像も出来ないけれど、私もいつか誰かと恋愛をして付き合うなんてことがあるのだろうか。
 でも、あるとしたら、雨宮くんとなら良い関係になれるのかもしれない。
 周りの噂話に乗せられるように私はそんなことを思っていた。