私はその目を真っ直ぐ見つめ返した。

 「元々ほら、そんな噂聞いてたし、チャラいなぁとも思ってたし……距離も、近いし……」

 顔が赤くならないように、必死で冷静を保つ。
 さっきの時間は、思い出してはいけない。
 赤くなったら、私の負けなのだ。

 だけど、遊び人だったとしたら、さっきの距離でキス……を、されなかった私はどうなんだ。
 女としての魅力が足りないのではないだろうか。

 突然そんな考えが頭を過り、私は口を噤んだ。

 勿論、そんなこと今まで気にしたことが無かったし、女の子らしく可愛がられる子になろうだなんて思ったこともない。
 残念ながらそんな育てられ方もされていないのだけど。

 なんとなく落ち込んだ心には、気付かないふりを決めた。

 櫂晴は、頭を抱えていた。

 耐えきれずといった様子で吹き出したダイさんの方を鋭い目で睨み、ふたりにしか分からない声の無いやり取りをしているようだった。

 しばらくして、小さなため息を零した彼はこちらに目を向けた。
 潤んでいるようにも見えた瞳の輝きに、私はじっと見つめ返す。

 「最近は、違うから」
 「そうなの?心境の変化?」

 状況証拠は揃っているので大して素直に受け取るつもりはないけれど。
 遊び人じゃなくなる心境があるのは、いいことだと思った。
 それに私も、そうなってほしいような、気がする。

 「まあね……。分かんない?」

 覗き込むように下から見つめられ、私は砂糖を溶かしていた手を止めた。
 何度も瞬きを繰り返す私を彼は満足そうに見つめていて、片方の口角をほんの少し上げた。

 そういう普段見せない表情がきっと女の子たちをドキドキさせるんだ。
 私だけが見れているんじゃないか、なんてそんな気持ちにさせてしまうんだ。
 私はおかしく暴れる心臓を振り払うように顔を左右に動かす。

 「分かんないし、全然変わってないじゃん!」

 そう突き返すと、彼は困ったように眉を下げた。
 ため息をついた私を見て、ダイさんは微笑ましそうに笑っていた。