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 「櫂晴は凄いですよね」

 放課後、私はいつかのかき氷屋さんに来ていた。
 "季節の家"と名付けられたお店の意味を、手渡されたメニューを見て初めて理解した。

 季節が変わって、秋は焼き芋のお店になるらしい。
 下校時はテイクアウトの注文が多く、店内は私だけだった。

 「んー?」

 手が空いて、カウンターの向こう側に腰掛けたダイさんに、私は思わず呟いた。

 無理やり連れてこられたあの日以来、何度か櫂晴と共に訪れたこのお店。
 気付けばかき氷のファンになり、焼き芋屋さんになった今も、ひとりで訪れるほどに常連となっていた。

 「いつも夢を追いかけてるじゃないですか……。自分の夢を見失わないって凄いです」

 母とのことがあり、夢を追うことの厳しさを改めて感じた私は嘆く。

 ダイさんはそんな私に優しい目を向けた。

 目にかかる長髪にたまに見える耳には数え切れないほどのピアスがある。
 少し怖かった印象は気付けばすっかり変わって、優しいお兄さんになっていた。

 だけど、櫂晴と関わらなければ見た目だけできっと嫌煙していた。
 それは、小さな世界に閉じこもっていた私に、世界を知らないのは勿体ないと思わせる確かな事実だった。

 「そうだよね。でもあいつも元からあんな訳じゃないんだよ」

 にっこりと笑ったダイさんは、私を掠めてさらに奥を向いていた。