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 「まだ頑張ってるの?」

 開かれた扉に、私は慌てて広げていたノートの上に別のノートを被せた。

 時刻は午前0時を回っていた。
 そんな遅い時間に、温かい飲み物を持って現れたのは母だった。私は振り返り笑顔を見せる。

 「ごめん、明かり漏れてるよね……もう寝るよ」
 「ううん、私は大丈夫よ。本当に偉いね」

 母は、私を応援してくれていた。
 国立大学の受験に成功する私を。国家公務員として安定した生活を手に入れる私を。

 そんなに入っていないのに、どこか重たいマグカップを受け取る。そのマグカップは苦しいほどに温かかった。

 「頑張ってね」
 「ありがとう」

 扉が完全に閉じられるまで母を見送り、隠していたノートと参考書を広げる。
 広げていたのは天気予報士の参考書だった。私は、一欠片の夢に、見て見ぬふりを続けることが出来なかった。

 小学生の頃から毎日、ここに座って勉強していた。
 それは変わっていないはずなのに、櫂晴くんと出会ってから、彼の夢を見てから、本棚の奥に眠る参考書が気になって仕方なくなった。

 そして何時しか、私は普段の勉強後の数時間を天気予報士の勉強に費やすようになっていた。

 叶わないけど、分かってるけど、それでも……。
 彼に感化されていたことは間違いなかった。

 やるだけならだれにも迷惑はかけてない。
 これは、ただの自己満足。
 現実から逃げるように、正当化する理由を見つけては、私は毎晩勉強に励んでいた。