感情のままに開こうとした私の口は、扉が開かれる音に止められた。

 「何やってんの?俺の話だよね」

 タイミング悪く教室に入ってきた彼に、私は突然冷静になり、嫌な汗をかいた。

 私、何をしているんだろう……。
 こんなに感情がコントロールできないことなんて今まで無かった。私、どうしちゃったんだろう……。

 皆は笑いながら、彼を受け入れた。

 「聞いてたのー?なんか、華梛怒っちゃってさ。こんなのいっつも言ってるのにね!」

 本人に聞かれていても、全く焦りもしない皆に、私はまた、知らない世界へ迷い込んだ気分だった。

 でも私だったら嫌だ。
 彼は、いつも自分の夢を否定されて、その集団の中であの真っ直ぐな目を持っているのだろうか。
 そんなの、辛くないのだろうか。

 拳を強く握りしめ見上げると、相楽くんは笑っていなかった。
 驚いたようにこちらを見つめ固まる彼に、拳に入っていた力が弱まる。

 「え……櫂晴?怒ってる?違うよ、いつものノリで言っただけで、本気なわけじゃ……」

 笑顔を見せない相楽くんに、焦った女の子は甘えた顔で彼に擦り寄った。
 その様子に、今までとは違う嫌悪感を抱き、私は顔をしかめる。

 相楽くんはすぐに笑顔を見せた。もう見慣れてしまった、純度100%の爽やかな笑顔。
 その笑顔のまま、彼女達の頭撫でて、そのまま肩に腕を回した。

 「分かってるよ、大丈夫。今日俺レッスンサボるし、遊び行こう。寂しさの裏返しなんだろ?」
 「はー!?うざー!!」

 甘い声で意地悪く笑いそんなことを囁く彼に、すぐに明るい空気が戻った。
 ただひとり、ついていけなかった私は、悔しさで顔を真っ赤に染め上げる。

 本当にこれが普通なの?私が間違えてるの?

 「華梛も、真に受けて怒んなくていいからさ。ありがとな」

 そう言い残し、教室を出ていってしまう彼らの集団をぼんやりと見送る。
 最後に席を立った音坂くんと目が合った。

 「美雲」
 「楽久ー!?はやくー!」

 廊下からの呼ぶ声に、音坂くんはすぐに言葉を止めた。
 何か言いたげな表情のまま、向きを変え廊下へと出ていく。
 私はそんな彼の後ろ姿を、ただ呆然と眺めていた。

 「びっくりした、どうしたの急に」

 雨宮くんの声がして、私はゆっくりそちらに目を向ける。
 彼だけではなく、教室に残っていた友人たちが心配そうに私を見ていて、私は小さく笑みをこぼした。

 「華梛らしくないね」
 「ホントだよね……らしくないや」

 でもね、応援してたんだ。
 私ができないような夢に向かう彼に、夢を叶えて欲しいと思っただけだったんだ。