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 次の休み時間の間に学校へ戻る。
 授業をサボったことは特にお咎めなしだった。

 「二人揃って体調不良にされてたよ」

 その理由は、説明不足により不満げな七星に教えられた。

 安堵のため息を零し席へと座ってから、後ろに集まる賑やかな集団に視線を向けた。

 お礼を言った方がいいだろうか……。
 でも、自分から話しかけにいくのは少し気後れする。

 彼女たちはいつも通り、たくさんの人が集まって騒いでいたけれど、その中に相楽くんはいないようだった。

 「櫂晴、今日もレッスンだって。つまんねー!」
 「頑張るよねえ、どーせ無理なのに」
 「あはは、ひっどーい……!」

 その集団からはっきりと聞こえてきた声に私は衝撃を受けた。

 いつも自信満々な彼。仲の良い集団。
 あの輪に自分から飛び込むことはなかった。だから、私が彼の世界を分かっていなかったのかもしれないけど……。
 私は勝手に、彼の夢は皆から応援されているのだと思っていた。

 あんなに親しそうにしていたのに。
 楽しそうで、輝いていて、少し羨ましいと思ったくらいだったのに。

 怒りに似た気持ちが心の奥底で燃え上がっていた。

 人の本気の頑張りを馬鹿にして笑える世界が、相楽くんの生きる世界なんだとしたら、どうして彼はあんなにも輝かしく夢を追い続けられるのだろう。
 あの真っ直ぐな目を見て、笑い飛ばせるのは、どういう神経をしているのだろう。

 気付いたら、私は立ち上がり足を向けていた。

 感謝を伝えようと思っていたときは足踏みをしていたのに、文句を言うために足が動くなんて、私も大概性格が悪い。
 それでも、言わずには居られなかったのだ。だって彼は、夢を追う彼の姿は、私の憧れなのだから。

 「え?華梛ー?どうしたの珍しいじゃん!」
 「友だちなんだったら、応援してあげなよ」

 話も聞かずそう呟いた私に、彼女たちは面食らっていた。
 だけどすぐにその口角を上げ、私の肩に軽く触れる。

 「あ……はは、どうしたの華梛!うちらいっつもこんな感じだよ!?」
 「やっぱ真面目だなぁ。私達も本気で否定してるわけじゃなくて、ノリじゃんこういう!ね?楽久!」

 言い返された言葉はどれも理解しがたかった。

 机に肘をつき、その集団の中にいた音坂くんは、伏せ目がちに笑みを見せた。

 「……だね」

 静かに肯定した彼に、私の怒りは沸点に達した。

 信じられない。
 音坂くんまで、彼の夢を笑うんだ。親友のようにいつも近くにいて、練習場所の河原にもよく一緒に行くのだと聞く。

 彼の真剣な努力を見ている音坂くんなら、そんな風に同意することなんて出来ないと思ったのに。

 夢を笑える関係性だなんて知りたくもない。そんなノリなんて笑えない。