ードンッと音が鳴った。
 バランスを崩した雨宮くんが私の机に手をつく。
 身を守るように目を閉じ頭を下げると、ふわっと香った柔軟剤の香りをかき消すように、きつい香水の香りが鼻を切っていった。

 「お!悪い!!」
 「ううん、大丈夫。」

 気にしていなさそうに明るく謝る男の子と、対照的に冷静に応える雨宮くんの声が聞こえる。
 顔を少し上げぶつかった人物を確認すると、だらしなく伸ばされた明るい茶髪が見えた。
 横顔ははっきりと見えなかったけど、髪の隙間からピアスの光がキラキラと反射する。

 「 櫂晴(かいせい)!おっそーい!」

 後ろの方の席から聞こえる甲高い女の子の声に、その口角は楽しそうに上がった。

 「おぉ、寝坊した」
 「だと思ったよ」

 後ろから現れた長い黒髪をハーフアップでまとめた男の子がどさりと体重をかける。彼の耳にも、同じピアスが輝いていた。

 「はよ、楽久(がく)

 楽しそうに笑い合う彼らは、後ろに集まる集団の中へと入っていった。
 彼らの世界は、学生らしい賑やかな声が響く教室の後ろ側。私達がいる前側とは、所謂違う世界。
 それなのに教室全体に響き渡るような大きすぎる声が、私はあまり好きではなかった。