だけど、違いすぎる世界は、不思議と荒立っていた心の波を落ち着かせた。

 「つか、あんな勉強しててなんで今回だけ落ちたんだよ」
 「誰のせいで……」

 気を許していた。気付けば考えるよりも先にそう呟いていて、私はハッと口をとざした。
 彼は驚いたように目を見開き、スプーンを置く。

 「え……俺のせいなの?」

 真っ直ぐな瞳が向けられ、私は頭に手を当てて首を振った。
 かき氷の冷たさがこめかみを刺激する。それに乗っかるように自分自身の情けなさにも頭痛がした。

 「……ううん、違う。ごめん八つ当たり、最低だ」

 こんな自分勝手な感情。キレられそうだと思って、目を閉じると、隣から大きな笑い声が響いた。

 「なんでそんな笑うの?」
 「八つ当たり……はは、八つ当たりかぁ。やっぱ華梛は、ずっと素直で可愛いな!
 いいんじゃん?そっちの方が俺は好きだよ」

 問い詰められることは無かった。だけど、思いもよらぬ発言に、私は顔を真っ赤にした。

 「は?超真っ赤、可愛い」

 からかわれているのは分かっている。
 だけど、私はいつも彼の近くにいる女の子たちとは違って免疫がないのだ。
 赤くなるのは必然で、止めることなんてできない。

 目の前にいたダイさんは、特に気にしていない様子でお皿を拭いていた。
 だからきっと彼は、いつも女の子にこんなことを囁いているのだろうと、そう何度も言い聞かせて自分の心を落ち着けた。

 「ダイさん、相楽くんっていっつもこんな感じなんですか?」
 「んー?まあ、女の子堕とすのは得意だよね」

 にやにやと相楽くんに視線を向けながら言ったダイさん。
 信じられないと、軽蔑に近い視線を向けた私に、彼は慌てたように取り繕う。

 「ダイくんがよく言うよ!てか、華梛も自然に名前呼びじゃん!こいつのが100倍危ないからな!?」
 「ああ、そっか。まだまだ俺には及ばないね、相楽くん」
 「は!?まじでうざい!華梛!今日から俺の事は櫂晴と呼べ!絶対な!」

 ムキになって、そう言い放った「相楽」くん。
 対して余裕の笑みで迎え撃つダイさんとは、大層不穏なやりとりをしているけれど、仲が良いことは明確に伝わって来た。

 言い合いをしながらもどこか楽しそうなふたりの姿に、私の気持ちは緩やかに解されていた。