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 辿り着いたのは、学校のほぼ真裏に位置する小さなお店だった。

 「ダイくん、おつかれっす」

 強引に連れてきたのにも関わらず、足早に入っていってしまった彼に、私は覚悟を決めて後を追う。
 始業のチャイムを校舎の外で聞いたのは生まれて初めての経験だった。

 よくテレビで見かける昔の駄菓子屋さんのような和風な作りに新鮮味を感じ、暖簾を潜る。
 暖簾には、達筆な字体で"季節の家"と書かれていた。

 「おい、櫂晴。授業中だろー?」

 ドクンと音を立てた胸に足を止める。
 冷や汗が溢れるような言葉だったけど、彼は気にも止めず、笑いながらカウンターのような席に腰を下ろした。

 「いーのいーの、テスト終わったばっかだから」
 「相変わらずの不良児」

 「ダイくん」と呼ばれた店員さんは慣れたように笑って、彼の前にお冷を差し出した。
 こんな歴史ある造りの建物には似合わない、若くてヤンチャそうなお兄さんだった。

 「どうぞ」

 入り口に立ち尽くす私にも微笑んで、席を指す。
 私は恐る恐る頷いて、彼の隣に腰掛けた。

 小さなピアスを光らせる相楽くんや音坂くんが可愛く見えてしまうほど、ダイさんの耳には数え切れないほどの装飾が施されていた。
 唇にもピアスが付き、後ろで軽く纏められた髪は途中から色が違う。

 あまりにも関わることのなかった容姿に、私は落ち着きなく視線を彷徨わせていた。

 「はじめてだね、いらっしゃい」

 だけど、その声は穏やかで優しかった。
 目を細めると、どちらかというと癒し系な笑顔になる。

 私が小さく会釈を返すと、ダイさんは微笑みながらお冷を置いてくれた。
 差し出されたお水を口に含むと、ひんやりと乾いていた喉が潤った。

 「俺いつものでいいや」

 メニューを一周した彼は、パタンとそれを閉じて、私に手渡した。