⋆*
 「なぁ、何してたんだよ」

 授業が終わったあと、早速茶々を入れに来た相楽くんに、私は収まっていた赤面が再発した。

 「やめて。恥ずかしいんだから、忘れて」

 とにかく後悔の念に襲われている私は、今すぐに記憶を抹消してほしいくらい気持ちは荒だっていた。

 「はぁ?なんだそれ。無理だろ、華梛だぞ?」

 対する彼は、叱られることなんて日常茶飯事だからだろうか。
 ずばずばと私の消し去りたい過去を掘り起こそうとしてくる。
 私は、彼の視線から目を背け、ぼそぼそと呟いた。

 「天気……。帰る頃には晴れそうだから、良かったなって思ってただけ」

 許されないはずのもの。消し去りたい過去。
 それなのに、真正面にいた彼は、ぱあっと表情を輝かせた。

 「おまえ、やっぱてんっさいだな!!」

 その笑顔を見るだけで、罪悪感や羞恥心が消えていってしまう程の、鮮やかに晴れた笑顔だった。

 「じゃあ帰り練習して帰れるじゃん!てかもう毎日教えてよ、俺の気象予報士就任!」

 テンションを上げる彼に、私は慌てて否定する。

 「そ、そんな無理だよ外れるかもしれないし」
 「なんで?だから、勉強してんだろ?外したっていいし、俺風邪ひかねーし!」

 決して、そういう問題ではない。
 だけど大きすぎる声と、少しずつ集まる視線に、私は焦っていた。

 私が密かに憧れていた気象予報士についても、一度も触れたことがない、七星や友人たち、雨宮くんからの視線も刺さり、頭が真っ白になる。

 「違う!私は、公務員になるの!だからそのために、勉強してる……の」

 言っている途中から分かりやすく彼の表情は陰り、私の口調も緩やかに自信の無いものへと移っていった。

 だって、また……。

 「それって本当にお前のやりたいことなわけ?
 ……つまんねー人生だな」

 夢を追う彼に失望されることは、信じられないくらいに私の胸を締め付ける。
 私は、去っていく彼を追うことは出来なかった。